JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
JR東海が12月18日、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を報道公開した。燃料は水素で大気中の酸素と反応して発電する。燃料電池は水だけが出て二酸化炭素などは発生しないため、脱炭素動力の切り札ともされる。水素エネルギーへのJR4社の取り組みを紹介し、鉄道にとっての「水素」を考えてみたい。
水素エネルギーの輸入は日本の国土を守る
車両を開発しているJR東日本やJR東海に比べると、JR西日本とJR貨物の取り組みは地味だ。しかし水素エネルギーにとって最も重要な部分は「調達と供給拠点」。なぜなら水素エネルギーは、すべてゼロカーボンではないからだ。川崎の水素は副産物だから仕方ないとして、国内で生産される水素の原料は石油や液化天然ガスだ。
水素供給大手のイワタニのサイトによると、ほかに石炭を蒸し焼きにしてつくる方法もある。しかしどれも二酸化炭素を出してしまう。このような水素は「グレー水素」という。副産物の二酸化炭素を大気に放出せずに地下深くに埋めると、ブルー水素と呼ばれる。一応クリーンな水素である。ちなみに埋められた二酸化炭素は数百年から千年かけて地下水や岩石と化学反応して炭酸塩岩として固定されるという。
完全にクリーンな水素は、水を電気分解して取り出す水素だ。二酸化炭素を全く出さないのでグリーン水素という。しかしここで引っかかる。生成に電気を使うとは。その電気はどうやってつくるんだ。火力発電所でつくったらそこで二酸化炭素が発生する。再生エネルギーなら完全にクリーンだ。風力や水力、太陽電池で電気をつくればいい。
ところが困ったことに、再生エネルギーに最も必要な資源は「土地」である。そして島国の日本は土地が少ない。森を切り倒して太陽電池を敷き詰めると、環境維持として本末転倒だ。正しく施工しないと山崩れの原因になる。風力発電は景観破壊になりがちだ。オンライン署名サイト「change.org」で検索すると、約60カ所で反対運動が起きている。ならば水力はどうか。これ以上ダムを造れるだろうか。
そんな八方ふさがりを打開する方法もやっぱり水素だ。水素は液化して貯蔵し、運搬できる。日本よりもっと土地があるところで再生エネルギー発電を行い、その電力で水素をつくり船で運べばよいのだ。冷却には電気を使うけれども、それも水素で発電すればよい。
関西電力と川崎重工が協働する理由がこれだ。川崎重工は水素の製造、液化、貯蔵、運搬船、発電のノウハウを持っている。19年に液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を進水し、20年に神戸港で世界初の液化水素荷役ターミナルを納入した。日本とオーストラリア政府の支援を受けて、オーストラリアの褐炭田からブルー水素を抽出し、液化して日本に運ぶプロジェクトが進む。LNGや石油と同じように、クリーンな水素を輸入できる。
姫路港に大型水素運搬船が寄港できるようになれば水素の価格も下がるという。現在は1立方メートル当たり約100円、これは既存燃料の約12倍だ。しかし大量輸入によって、1立方メートル当たり約30円まで下げる目標だ。
関連記事
- 年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。 - 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。 - 鉄道と脱炭素 JR東日本とJR西日本の取り組み
2021年5月26日に参議院で可決した「地球温暖化対策推進法の改正法案」は、地球温暖化対策として、CO2など温室効果ガスの削減への取り組みを求めている。CO2削減では自動車業界の話題が突出しているが、鉄道業界はどのようにしていくつもりだろうか。 - JR東日本がトヨタと組む「燃料電池電車」 “水素で動く車両”を目指す歴史と戦略
JR東日本がトヨタ自動車などと燃料電池を活用した試験車両の開発で連携する。業種の垣根を越えた取り組みは各社にメリットがある。JR東にとっては、次世代車両として燃料電池電車を選択肢に加え、最終目標のゼロエミッションを目指す一歩となる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.