JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)
JR東海が12月18日、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を報道公開した。燃料は水素で大気中の酸素と反応して発電する。燃料電池は水だけが出て二酸化炭素などは発生しないため、脱炭素動力の切り札ともされる。水素エネルギーへのJR4社の取り組みを紹介し、鉄道にとっての「水素」を考えてみたい。
JR西日本とJR貨物は輸送で参画
23年11月21日、関西電力、JR西日本、JR貨物、NTT、NTTアノードエナジー、パナソニックが「姫路エリアを起点とした水素輸送・利活用等に関する協業」について基本合意した。JR東海の開発宣言の5日後で、あわせてみれば、日本の水素エネルギーの高まりを感じさせる。
姫路港は液化天然ガス(LNG)の輸入量で国内3位の実績がある。ちなみに1位は木更津港、2位は千葉港だ。その背景から、22年に関西電力と川崎重工が姫路市周辺の湾岸部に輸入拠点を検討している。水素の用途は火力発電向けで、オーストラリアから年間10万トン程度を想定し、関西電力の姫路第1発電所、姫路第2発電所に供給する。関西電力は30年から天然ガスと水素の混合に着手し、将来は天然ガスのみで発電してゼロカーボンを達成する。
兵庫県は19年に産官学を連携した「兵庫水素社会推進構想」を掲げていた。22年には知事を本部長とする「ひょうご水素・脱炭素社会推進本部」を設置し、姫路港の水素拠点化を後押しする。
「姫路エリアを起点とした水素輸送・利活用等に関する協業」において、JR西日本は線路敷地の水素パイプラインと燃料電池車両の実施可能性、JR貨物は鉄道による水素輸送、貨物駅作業の脱炭素化などを調査研究する。NTTとNTTアノードエナジーも通信管路に水素パイプラインを検討する。パナソニックは自社製の燃料電池を活用する枠組みを検討する。肝心の関西電力は液化水素の安定調達、水素受け入れ基地、発電以外の利活用先などを検討する。
これは日本の水素社会を大きく前進させるプロジェクトだ。水素自動車はトヨタが市販しているけれども、普及の障害は「供給拠点の少なさ」だ。販売台数が少ないから拠点が少ない。トヨタは水素補給拠点を公開しているけれど、数はあっても営業時間は短い。理由は単純で、水素タンクを常設しているところは少なく、ほとんどが水素タンクトレーラーの巡回対応となっているからだ。
こんな状態だから自家用水素車は普及しない。ただしバスやトラックなど、ルートと走行距離が確定している車両にとっては扱いやすい。1日の走行距離が把握できるから、車庫などの拠点で給水素計画を立てられる。そしてそれは鉄道車両も同じだ。鉄道が水素を採用すれば、車両基地に水素供給拠点を設置でき、その周辺に自家用水素車用の給水素スタンドを設置しやすくなる。いつでもすぐに水素を補給できる環境なら、水素自動車の普及も進むだろう。鉄道の動力として水素が消費されるようになれば、水素の価格も下がっていく。
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