JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/7 ページ)
JR東海が12月18日、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を報道公開した。燃料は水素で大気中の酸素と反応して発電する。燃料電池は水だけが出て二酸化炭素などは発生しないため、脱炭素動力の切り札ともされる。水素エネルギーへのJR4社の取り組みを紹介し、鉄道にとっての「水素」を考えてみたい。
JR東日本は試験車両「HYBARI」完成
燃料電池はすでにJR東日本が試験車両「FV-E991系電車」を完成させている。形態を見ると短距離の通勤用車両だ。短距離で平坦、頻繁に発進停止を繰り返す。1両当たりの乗客数も多い。こちらも過酷な条件である。
JR東日本の水素燃料の取り組みは早く、08年に「クモヤE995形」を制作して試験を実施した。この車両は、鉄道総合研究所と共同制作したハイブリッド気動車「キヤ991形」に燃料電池を搭載した車両だった。
JR東日本は15年に川崎市と「包括連携協定」を結んでいる。川崎市は水素の生産地だからだ。といっても、積極的に水素をつくってきたわけではなく、工業地域の副産物だ。石油化学プラント、製鉄所、苛性ソーダなどの生産工程で発生してしまう。水素エネルギーが脚光を浴びるなかで、捨てるにはもったいない。そこで川崎市は15年3月に「水素社会の実現に向けた川崎水素戦略」を策定していた。
そしてJR東日本は、18年にトヨタ自動車と水素活用で連携すると発表。19年には試験車両の制作と鶴見線・南武線支線の実証実験予定を発表した。この路線がある神奈川県、川崎市、横浜市とも連携する。
20年にJR東日本、日立製作所、トヨタが燃料電池と蓄電池を搭載した試験車両の開発を発表した。これが22年に完成した「FV-E991系電車」だ。愛称の「ひばり(HYBARI)」は「HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation」の略称で、意味は「変革を起こす水素燃料電池と主回路用蓄電池ハイブリッドの先進鉄道車両」だという。
しかし往年の鉄道ファンにとって「ひばり」は昭和の名列車。上野〜仙台間を結んだ特急ひばりを連想する。JR東日本は、かつて東北地域に光を当てた列車名に何か思い入れがあって、新エネルギー車両の名称にこじつけたのかもしれない。
「FV-E991系電車」の方のひばりは、現在も鶴見線・南武線支線で試験を実施しているほか、23年秋に東京ビッグサイトで開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」でも展示された。鉄道車両の運搬はおカネも手間もかかるけれど、「東京モーターショー」から「総合モビリティショー」になった「JAPAN MOBILITY SHOW」にとって象徴的な役目を果たした。
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