日中自動車メーカーのASEAN争奪戦:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
2024年ーーというか、ここから数年の間、自動車産業の重要なテーマの一つは「ASEANマーケットの覇者になるのは、果たして日本か中国か」だ。ASEANでは、現在進行形で、中国流のガバナンスを無視した発展と、日本流のガバナンスを守る発展の衝突が起きている。
2024年ーーというか、ここから数年の間、自動車産業の重要なテーマの一つは「ASEANマーケットの覇者になるのは誰」かだ。中国マーケットの縮小が見えてきた今、世界の工場は中国からASEANに取って代わることがほぼ見えた。経済発展に伴いクルマも売れる可能性が高い。
そしてその覇者になりそうなのは、ASEANの工業を半世紀以上にわたって育ててきた日本か、新興の中国かだ。中国は国内に過剰に投資された生産設備を抱え込んでおり、それを生かそうと思えば輸出を振興するしかない。できなければ過剰投資の負債の減価償却で首が締まって行くことは明らかなので、近隣で成長余地と吸収力のあるASEANを視野に入れないはずがない。
成長余地という意味ではインドもまた重要なマーケットではあるが、すでに決戦は始まっており、まだまだ先の長い戦いではあろうが、今のところ日本のリードは大きい。
しかしASEANはすでに風雲急を呼ぶ状態になっている。すでにあちこちのメディアで「日本のメーカーはASEANでもBEVに出遅れて、なす術もなくマーケットを奪われている」という「オワリの守」たちの大合唱が始まっている。
まあ、彼らはBEVをいっぱい作りさえすれば覇者になれるという単純な世界観の中にいるので、話は簡単でいいが、もちろん、そういう話ではない。作っても売れなければどうにもならない。現実的に見て、BEVでビジネスが回っているのは、テスラとBYDだけで、他は死屍累々。「保守的では生き残れない。リスクを取って飛ぶ覚悟が必要だ」と外野は簡単にいうが、そういう決断をした各社はアニマルスピリットに殉死する勢いである。減価償却で首が締まっていく中国やフォルクスワーゲンを見よと。
だからBEVなんてダメだという話をしているのではない。世に「天の時・地の利・人の和」という言葉があるが、時期と製品とサービスの仕掛け時を見定め、ユーザーのニーズに寄り添ってこそ勝機がある。テスラはアーリーアダプター向けのプレミアムBEVで商機をつかんだが、そこからアーリーマジョリティへの転換はどうもうまくいっていない。
今さらアーリーアダプター向けのサイバートラックを出しても、戦線にほとんど影響はない。うわさのモデル2がしっかりとアーリーマジョリティの心をつかめなければ、勢い込んで積み上げたギガファクトリーの巨額の先行投資によって、中国メーカー同様減価償却で首が締まって行く道が待っている。すでに投資を終えて、ルビコン河を渡ってしまった以上、テスラとしては存続をかけてモデル2を成功させるしかない。
ではBYDはどうなのか、そこをひも解いて行くことが、結局のところASEANの行く末の話につながってくると筆者は思っている。
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