日中自動車メーカーのASEAN争奪戦:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
2024年ーーというか、ここから数年の間、自動車産業の重要なテーマの一つは「ASEANマーケットの覇者になるのは、果たして日本か中国か」だ。ASEANでは、現在進行形で、中国流のガバナンスを無視した発展と、日本流のガバナンスを守る発展の衝突が起きている。
中国企業の競争力の裏側
15年5月に、中国の習近平政権は「中国製造2025」を唱え、経済発展を担う10分野について、国家ぐるみの重点政策を打ち出した。次世代情報技術や航空宇宙、高度医療などと合わせて、新エネルギー自動車もこの枠に取り上げられ、急速に発展を遂げたのはご存じの通りである。それが今「中国躍進論」として各方面で取り上げられている。
「中国を馬鹿にするのではなく、リスペクトしつつ、正々堂々と戦うべき」という意見も耳にするが、事はそんなに呑気な領域にはすでにない。
例えば、資源の領域で中国が何をやっているかといえば、グローバルな環境基準を意に介さず、土壌や河川を汚染しながらローコスト化を図ることだ。かつて中国の7色の川の写真がネットに出回ったことをご記憶の方もいるだろう。
環境に正しく配慮した開発をする国の企業は、価格的に勝負にならない。今でこそレアアースは中国が寡占しているが、そういうダンピング政策が始まる前は、世界各地でレアアースの採掘は事業化されていた。環境コストを無視した中国メーカーのダンピングでそれらは廃業に追い込まれただけのことだ。悪貨が良貨を駆逐するのは常である。
バッテリーもそうだ。「中国でクルマを売りたければ、中国で製造せよ。中国でクルマを製造したければ中国に現地法人を立ち上げよ。中国で法人を作りたければ、現地法人と合弁企業を作り、現地が50%以上の資本比率にせよ」という具合で、WTOのルール上真っ黒である。ついでにいえば、中国でBEVを生産したければ、中国メーカーからバッテリーを買えというルールもあった。そのおかげで、世界の自動車メーカーと合弁企業を作った中国の自動車メーカーは技術移転(要するに知財泥棒)と人材の引き抜きを徹底的に行い、不平等規制を背景にBYDやCATLを世界屈指のバッテリーメーカーに育て上げた。
「ちゃんと人に高い給料を払わないから引き抜かれるのだ」としたり顔で言う人がいるが、そうやって引き抜かれる人は何百人、何千人の中の生き残りにあたる。数多くの新入社員に均等に教育を行い、その成果として出来上がった人材を、結果が出てから単品で攫(さら)われたのでは、企業は人を教育する意欲がなくなる。誰も人を育てず、銭ゲバで完成品を引っこ抜く争いに明け暮れれば、やがて人材が払底するのは自明の理である。
あるいは労働対価の問題もある。米国では22年から、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)という法律が施行された。「新疆ウイグル自治区からの輸入品が強制労働で生産されたものではない」と企業が明白に証拠を示すことができない限り、同自治区が関与する産品輸入を原則禁止する法律である。
この法案の成立に主導的役割を果たしたのは米上下院の超党派の議員連盟で、つまり少なくとも米議会は、この強制労働が実際に存在し、法的に規制されるべきものとするだけの根拠があると思っている。もちろんわれわれにはその詳細は知る由もないが、そこらの与太話とは明らかに違う検証フェイズを経た結論であることは確かだ。
中国のルール破りは数え上げればキリがない。なんなら本が一冊書けてしまうが、要するに中国企業の競争力の裏側には、こうした世界のルールを逸脱した行為があるのだ。
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