日中自動車メーカーのASEAN争奪戦:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
2024年ーーというか、ここから数年の間、自動車産業の重要なテーマの一つは「ASEANマーケットの覇者になるのは、果たして日本か中国か」だ。ASEANでは、現在進行形で、中国流のガバナンスを無視した発展と、日本流のガバナンスを守る発展の衝突が起きている。
中国の矛盾は必ず表面化する
さて、ASEANでの日中の対立構造もこれと全く同じである。とすれば、日本はどう戦うべきか、中国同様の戦略は取れない。日本が時間をかけて構築してきた企業ガバナンスを全て元の木阿弥にしてしまうからだ。
米国が強く反発できるのは強大な軍事力と、世界No.1の国内市場があるからだ。軍事的にも経済的にもいつでもファイティングポーズが取れる。「米国マーケットから締め出される覚悟はできているのか?」という恫喝(どうかつ)である。
欧州は、ルールを変える。もちろん自国に都合の良い方向へだ。そしてルールを変えることに躊躇(ためら)いも自省もない。しかし、おそらく日本はどちらもできない。日本の市場を閉したところで、相手の痛みはさほど大きくないし、ましてや軍事力に訴えるのは国内事情的にも不可能。ルールをめぐる制空権で戦うにしても、建前論だけで終われない。「結局、相手を排除するためじゃないか」という身もふたもない事実に自省モードが発動してしまう。
しかし、日本にとって幸いなことに、現在中国では人口の何倍もの不動産物件の開発に投資してしまった過剰投資の後始末と、その救済のために金融機関に政府が融資を強いたことによる金融機関の債務危機、加えて地方自治体の資金調達に関する融資平台の巨額隠れ債務など、満身創痍(まんしんそうい)状態にあり、深刻な経済崩壊が進行中だ。今後は、巨額の政府助成金で企業の競争力に下駄をはかせることはきなくなる。中国国内の環境汚染の深刻化もひどい。元を糺(ただ)せばわれわれだって、そういうことには無頓着な経済発展を遂げてきた。しかし水俣病やイタイイタイ病、四日市喘息など、公害に起因する健康被害を経て、環境対策を怠ると大きなツケが後で回ってくることを、経験上痛感したのだ。その結果として現在のガバナンスが出来上がっている。
結局のところ無理は長くは続けられない。短期的にはともかく、サステイナブルな国家の発展、ひいては企業の発展のために必要だからこそ、ガバナンスが強化されてきたのである。
つまりASEANでは、現在進行形で、中国流のガバナンスを無視した発展と、日本流のガバナンスを守る発展の衝突が起きており、それはやがて結果が出るはずだ。非常に消極的に見えるかもしれないが、日本の自動車メーカーは、ここ数年じっと耐えることである。それは何もしないということではない。今のビジネスできちんと利益が上げられる製品をしっかり出して、耐えるための資本を確保することだ。
ソビエトの崩壊を思い起こすまでもなく、中国は矛盾を抱えて全力疾走しているので、いずれそれは必ず表面化する。そこまで耐え切る体力をまず付けることだと思う。ツケをため続けている以上、彼らの崩壊は必ず来る。その時まで、ASEAN各国との共感をどう作っていくかが重要なキーになるだろう。
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