日中自動車メーカーのASEAN争奪戦:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
2024年ーーというか、ここから数年の間、自動車産業の重要なテーマの一つは「ASEANマーケットの覇者になるのは、果たして日本か中国か」だ。ASEANでは、現在進行形で、中国流のガバナンスを無視した発展と、日本流のガバナンスを守る発展の衝突が起きている。
日本のハイコンテキスト文化を生かした戦い方
中国のやり方は、利益第一主義。自国経済の尻に火がついているので、とにかく少しでも多くの外貨を獲得したいだけだ。ASEAN各国の幸福という視点は欠落している。だから日本が取るべきは、中国が高転びに転ぶまで、耐える経済力を蓄えつつ、親身になってASEANの人々の幸福を願う日本メソッドで対応することだ。
23年の11月、トヨタのチーフサイエンティストオフィサーであるギル・プラット博士にインタビューした時、彼はとても面白い話をしてくれた。日本人は皆まで言わない。「言わずとも分かる」を旨とするハイコンテクスト文化である、言葉が少ない分を想像力で補い共感する文化だというのである。
同時に、ルールを守る文化でもある。電車の乗り降りのマナーひとつを見ても、外国人が落とした財布が戻ってくる話にしても同じ根っこだ。他人に迷惑をかけないこと、誠実であることに価値観を感じる文化をわれわれは持っている。だからこそ力で押し込む米国流も、ルールで罠に嵌(は)める欧州流も似合わない。だったらむしろハイコンテクスト文化を生かした戦い方があるのではないか。
ハイコンテクスト文化を生かして、現地の人々に寄り添うクルマを作り続けること。現実的かつ誰も切り捨てない製品を現地の人々の幸せのために供給し続けることではないだろうか。そしておそらく、日本のものづくり産業が、短期的な誘惑に駆られることなく、その日本メソッドを貫くために必要なのは、誠意は必ず伝わると信じる心だと思う。
いささか精神論めいたところは筆者自身も感じてはいるが、世界が中国のやり方に触発されて、視野狭窄の中で保護主義競争を繰り広げているからこそ、ルールを破らない、正しいやり方を通すことで勝ち取る信頼は大きい。日本だけは違うことがアピールできるのではないだろうか。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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