プロは「上手なウソ」をつく 関根勤や小堺一機を世に出した、大御所マネジャーの仕事術:異才を見いだす「育てるマネジメント」(3/4 ページ)
「上手な嘘をつけるのが良いマネジャーだ」――ENPASSの川岸咨鴻(かわぎし・ことひろ)名誉会長は、芸能マネジャーとして浅井企画で関根勤、小堺一機、柳沢慎吾、竹中直人、飯尾和樹といった人気タレントを続々と見出し、世に送り出してきた。本記事では川岸氏が身をもって体感した「良いマネジャーとは何か」「仕事はどう進めるべきか」について聞き、そのマネジメント論の本質に迫る。
人を知りたいなら、とにかくたくさんの人と出会う
佐藤氏: 「上手な嘘」でモチベーションをコントロールするのは大事ですよね。
では、タレントさんのモチベーションは高いんだけど、世間の思う面白さとはズレた方向性に行っているときはどう対応していますか?
川岸氏: ズレてるなって思っても、ダイレクトには指摘しないですね。いきなり上の立場の人間にダメ出しされても、本人も納得できないだろうし。ただ、面白さは自分じゃなくて世間が決めるものだから、どこかで軌道修正はしないといけない。気を遣って言わないでいると、5年10年無駄にしてしまうこともありますから。それを避けるために、直接ではなく遠回りで伝えるようにしています。
佐藤氏: 遠回りでとは、具体的にはどのように伝えていますか?
川岸氏: 例えば、その人が信頼している人や、物腰柔らかく指摘できる人に声をかけて、「あの子にやんわり伝えてあげて」とお願いするとか。その方が僕が直接言うより、素直に聞けると思うからね。
佐藤氏: なるほど。川岸さんとお会いするのは今日が初めてですけど、人を見極めるスキルがとにかく高いですよね。ちなみに、僕のことはどう見ていますか……?
川岸氏: 最高に好感持てるよね。表情が良い。
佐藤氏: ありがとうございます(笑)。ちなみに、そのスキルってどうやって身につけたものなんですか? これまで出会ってきた人数が圧倒的に多いんですかね。
川岸氏: それはあるかもしれません。役員になってからも現場が好きで、本来なら行かなくてもいいところへもひょこひょこ顔を出していたから。いろんなタイプの人と出会ってきた結果、少し話せば「この人はこういうタイプだな」とだいたい分かるようになったのかもしれないですね。
佐藤氏: 芸能事務所には、「タレントになりたい」と言ういろんなタイプの人が訪れますよね。川岸さんはサポートするかどうか、どんな視点で考えるんですか? それこそ、一瞬話せばタレントとして成功するかどうか感覚的に分かるとか?
川岸氏: 少し話しただけで、その人の才能を見抜く力はないですよ。基本的には来る者拒まず、去る物追わず。最終的には性格ですかね。
佐藤氏: 性格?
川岸氏: 例えば、「ずん」の飯尾和樹くんは最高の人間なんですよ。ものすごく性格がいい。タレントとして芽が出るのには20年以上の時間がかかったけど、その間彼は諦めなかったし、周りの人間も彼をサポートしたい、と思っていた。
飯尾くんを始め、小動物みたいな愛嬌があるというか……言語化するのは難しいんだけど、「なんか面倒を見てあげたい」と周りに思わせる、独特な魅力のある人たちがいるんですよ。それもある意味、才能のひとつなのかもしれないですね。
佐藤氏: チャンスを掴み取るまでその人自身が諦めないこと、その人のために周りが打席を用意したくなることは、どちらも大事ですね。
川岸氏: 1打席目から結果が出ることのほうが、まれだからね。マネジャーは、とにかく打席を用意して、タレントはたくさんバットを振る。目が出るのが早い人もいれば遅くでる人もいるから、それまでお互いに諦めないのが成功の秘訣なのかもしれませんね。
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