社員がリスキリングしてくれない IBM、キリン……成功企業はどうしているのか(2/2 ページ)
リスキリング教材を用意したのに、社員が活用してくれない。そんな悩みを抱える企業が多いようだ。社員が積極的にリスキリングに取り組み、効果を上げるためにはどんな工夫が必要なのだろうか――?
高まる期待と浮き彫りになった課題 成功企業の対策は
リスキリング制度を取り入れる企業が増える中、これまでの取り組みから見えてきた課題もある。パーソルキャリアの企業向け調査によると、リスキリング制度の課題について「期待するレベルまでスキルが身につかない」という回答が最も多く、次に「適切な研修方法が分からない」という回答が続いた。
こうした課題への対策事例として桜井氏が挙げるのが、研修を外部企業に委託するキリンホールディングスとダイドードリンコの取り組みだ。
キリンホールディングスでは、DX戦略推進室メンバー向けに、簡単なアプリであれば社内開発でき、外部委託の際も対等に議論できるレベルを目指した研修を外注。現役エンジニアのメンターサポートを通じ、アプリ開発を実業務でどのように行っているかの理解も深めた。結果、開発に必要な期間や工数感覚が身に付き、外部ベンダーとのやり取りもスムーズになったという。
社内でIT教育のノウハウがなかったというダイドードリンコでは、新入社員研修を外部委託。Webサイト制作に必要なプログラミング言語など、ビジネスレベルのITスキルが身に付くよう研修内容をカスタマイズした。
その結果、例年新入社員が行うビジネス企画の社内プレゼンで、 ITスキルを生かした新たなビジネス提案が複数上がるという成果があった。
「リスキリング」しない社員……学びを支える仕組みづくりを
とはいえ、なかなか取り組みが軌道に乗らない企業の方が多いのが実情のようだ。桜井氏は「教材を用意したものの社員が受けてくれないという声も多い。工夫がないとリスキリングは進まない」と説明する。
小林氏は「企業は学びの機会の提供だけでなく、学びのコミュニティ化など、学びを互いに支え合う仕組みづくりが重要」だと話す。
学びのコミュニティ化では、学習は一人では続きにくいということを前提に「個人が持つ人間関係のつながりや相互信頼・互恵的なネットワーク」である社会関係資本の概念を取り入れた仕組みづくりが重要になるという。
「日本人には信頼し合える仲間が少なく、本来であればまねをしたり、共に高め合ったりできる他者がいない人が多い。成功した企業は『学びの機会の提供と啓発』ではなく、社内外を含めた『つながりのデザイン』から取り組んでいる」(小林氏)
今後は社員が自律的に学べる仕組みと環境を整備することで、今後の賃上げや人材獲得競争の再激化にも耐えうる組織をつくることが企業人事の重要なミッションとなっていきそうだ。
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