日本人が休みづらい5つの理由
各国の休暇取得状況の調査を毎年行うエクスペディアによれば、22年の日本の有給取得率は米国に次いでワースト2位だった。
日本で有給休暇取得率が低い理由としては、次のようなことが考えられる。
(1)勤勉を美徳とする文化
日本人に「勤勉」の精神が根付いたのは、明治後期、欧米諸国に負けない国力増強を目指した政府の啓発の結果と言われている。
その精神がさらに強化されたのが高度経済成長期ではないかと、筆者は思う。モノを作れば作るだけ売れた時代、がんばって働けば会社がもうかり、社員も豊かになる。そういう状況であれば、休まず働くこともつらくはない。むしろ充実感もあって良いことと捉えられた。その感覚が、経済が下り坂になっても温存されてきたのではないか。
(2)仕事の自律性の低さ
高度経済成長期と違って、現代の労働者は「休まず働けば報われる」と信じているわけではないだろう。
それでも休みづらいのは、「周りの人に悪い」という理由が大きいようだ。「2023年 日本人の休み方実態調査」でも、罪悪感を感じる理由の上位に「同僚に迷惑をかけるから」(51.2%)、「同僚が働いているから」(37.4%)、「上司に迷惑をかけるから」(31.0%)がきている。
これは、自分だけでは完結できない仕事が多いこととも関係していそうだ。
国際比較調査グループISPPの調査「仕事と生活(職業意識)」(15年)によると、仕事を「自分ひとりでできる」と感じている人は、多くの先進国で8割以上を占めるが、日本では男女ともに2割台にとどまる。
一人で仕事を完結させられる割合が高ければ、仕事の進め方やタイミングを自分で調整し、休みを取るのも容易になる。しかし日本の職場では一人ひとりの職務と権限の範囲が明確に決まっておらず、その都度上司に確認を取らなければ仕事が進まなかったり、自分がいなければ他の人にしわ寄せがいったりする。これが休みづらさの一因になっていると考えられる。
(3)マネジメントの問題
休んでいる間にたまった仕事を後で片付けることの大変さを考えると、おいそれと休んでいられないという声もよく聞く。
これは、休んだその人しか把握していない仕事が多い、休む人がいることを前提とした体制が作れていないというマネジメントの問題だ。
「法律で決められているんだから、休んでくれなくちゃ困る」というなら、休んでも仕事が滞らない仕組みを作ることが、本来のマネジメントの仕事である。
(4)休むことに慣れていない
エクスペディアの調査によると、「休暇中に連絡を遮断しない」人の割合は日本がダントツで1位だ。休みを取っても仕事モードから休みモードに頭を切り替えることができない、休み下手な日本人の姿が見えてくる。
法律や会社の後押しがあっても、休むことに慣れておらず、楽しめない。だから積極的に休めないという状況にありそうだ。
(5)経済の停滞
最初に掲載した労働者1人当たり有給休暇取得率の推移を見ると、昭和の終わりから平成初期には取得率が50%を超えている。
それが2001年に50%を下回り、17年までずっと40%台を推移している。これは、日本の経済が長期に渡って低迷していた時代に重なる。
旅行をしたり遊んだりという余裕がなくなれば休みを取ろうというモチベーションも落ちていく。物価高と円安が進む現在も、大いに実感することではないだろうか。
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