コラム
「退職金の廃止」を会社が勝手に決定 入社時の説明と違うが、会社の責任は?:判例を基に解説(4/4 ページ)
入社時に説明を受けていた「退職金の支給」を会社が勝手に廃止にしていたことが判明した。入社時の説明と異なる場合、会社はどのような責任に問われるのか?
退職金制度、どう見直す?
このように、会社の存続危機といった特別な状態でない限り、退職金制度を単純に廃止することは難しいです。やむを得ず廃止に踏み切る場合は、何らかの代替措置を講じた上で禍根を残さない形で個別の合意を得る必要があります。
筆者は社会保険労務士ですが、実際に企業から退職金制度の廃止の相談を受けたケースでは、制度を導入するときに十分なシミュレーションをしないまま他社の規程をまねて作成し、いざ試算したらとても払える体力がなかったケースや中小企業退職金共済と契約する旨の規定がされているにもかかわらず、契約を失念したまま10年以上放置されていたというものがありました。
退職金の支払いは数十年後なので軽く考えてしまいがちですが、入社時に約束した通りに払えないと従業員の老後の生活設計が崩れてしまいますので会社は慎重に検討し導入する必要があります。採用活動においては退職金制度があることは有利に働きますから、小さく始めて徐々に拡充していくことなど工夫しましょう。
また退職金については、同一労働同一賃金の観点から有期雇用労働者についても適用が求められることがあります。このあたりについてキャリアアップ助成金の支援を受けることができますので、適用範囲を広げる場合は上手く活用してきましょう。
正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度「キャリアアップ助成金」の支援を受けて、非正規雇用者にも退職金を広げることも(画像:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和5年度版)」)
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