ユーザー調査の「使いたいと思います」を信じてはいけない、3つの理由:グッドパッチとUXの話をしようか(2/5 ページ)
新商品の発売前などに「ユーザー調査」を実施する企業もあるかと思います。その中で「使いたいと思いますか?」という設問への回答は信頼すべきではないようです。なぜかというと……
1.利用意向を問う設問の「点数評価」を鵜呑みにしてはいけない
コンセプトテストでは、その商品の方向性にユーザーが興味を示しているか測るために「この商品(サービス)を利用したいと思いますか?」という設問がよく使われます。
利用意向はそのまま質問にすると「使いたいと思いますか?」となりますが、実はこの「使いたいと思う」という表現はとても曖昧(あいまい)です。
例えば、テレビやSNSで見かけたもので「気になるな、使ってみたい(買ってみたい)な」と思うことは皆さんもよくあると思います。ですが、そう思ったものの中で、実際に購入したものはどのくらいありますか?
正直、筆者は気になったものが50個あったとして、購入したものは1つあればいいほうです。もちろんユーザーも同じで、パッとみたものに対して「使いたいと思う」ことと「実際に買う」ことは全く違います。そのため、利用意向を聞く際には、以下のように具体的な行動を問う言い回しにすることが大切です。
また、こうした調査では、意向の程度を測るために便宜的に数字を使っていますが、そもそも人の行動に対するモチベーションは主観的であり、定量的にきっちり切り分けられるものではありません。
さらに言えば、数字に抱く印象(心象)も人によってまちまち。点数をシビアにつける人もいれば、甘めにつける人もいるわけです。
実際、定性調査のインタビューで聞いてみると「4:使うと思う」という選択肢を選んだ人の中でも「使いたい人もいるんじゃないですか? 私は使わないですけど」という感じの人もいれば、「めっちゃいいですね、使いたいです! でも、XXXが気になるので5ではなく4かな」といった温度感のユーザーもいるのが実態です。
こうなると、1と5の差は明確ですが、2〜4の差はほとんどないといっても過言ではありません。さまざまなユーザーの点数の平均をとってもあまり意味がない、と思いませんか?
大切なのは、5つの数字に惑わされることなく「どこに価値を感じているのか?」「どんな課題を解決できるのか?」といった背景や理由を問い、その内容から根拠と温度感を把握した上で点数を捉えることです。背景や理由をアンケートで聞くのもいいでしょう。
ちょっとした小技ですが「選べる数字を6段階にする」のも有効です。特に日本人に多いのですが、人間は中央の数字を選ぶ傾向が強いため、「3:どちらともいえない」という選択肢があると「どちらかというと……」といった気持ちがあっても3を選んでしまいます。
これは「ゴルディロックス効果」や「アンカリング効果」と呼ばれ、「極端な意見を回避したい」という人間心理から由来しています。
1〜3をネガティブな指標、4〜6をポジティブな指標にして中央をなくすことで、受容性があるかないかをよりはっきりさせることができます。
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