管理職の定義を見直すべき理由
各社の女性管理職比率や関連情報を見てきた中で、気になった点がある。それは、管理職の類似表現である。
金融庁は23年4月、地方銀行の女性管理職比率にバラツキがあることから、管理職の定義が各行で異なっているのではないか、またその背後に女性登用の進捗を過度によく見せる「ジェンダーウォッシュ」があるのではないかと疑念を呈していた(※2)。
※2:Bloomberg「地銀の女性登用、「ジェンダーウォッシュ」がないか確認を−金融庁」(23年10月17日アクセス)
今回提出された有価証券報告書においても、管理職の類似表現として「幹部」や「マネジャー」などが用いられている場合があった。これらの実績値や目標値は女性管理職比率と比べて高いことが多く、一見すると女性管理職登用が順調に進んでいるように映った。しかし、「幹部」や「マネジャー」などの定義や位置付けが示されることはほとんどなく、金融庁が指摘していたように、ジェンダーウォッシュと受け取られかねない記載も見られた。
「幹部」や「マネジャー」などの語を使うべきではない、と言いたいわけではない。例えば「マネジャー」が管理職の手前のポストであれば、その女性比率の向上は、将来的な女性管理職比率の改善を感じさせる重要な指標である。
しかし、そうした情報がなければ、記載情報が有益なものか、ジェンダーウォッシュにあたるか、読み手に委ねられてしまう。類似表現が全てジェンダーウォッシュにあたるとは考えにくいが、そうした解釈につながりかねないことは、開示実務の上で念頭に置く必要があるのではないだろうか。
まとめ
本コラムでは、23年3月期決算から有価証券報告書への記載が義務となった女性管理職比率を起点に、女性の採用や登用について考えてきた。最後に、日本の大手企業が提出した有価証券報告書を通して確認できたことを整理したい。
(1)政府が掲げる女性管理職比率30%を現時点で達成している企業は極めて少ない約3%で、30%以上を目標として掲げる企業も約20%と多くない。
(2)女性の新卒採用や役員登用の目標が記載される企業は限られており、採用、育成、登用までのパイプラインの観点から女性管理職比率を捉えた開示は少ない。
(3)管理職の類似表現を用いた記載が見られるが、その説明が不十分なため、ジェンダーウォッシュと受け取られかねない場合がある。
このように、政府が掲げてきた女性管理職比率30%と現在地の間には、依然大きな隔たりがある。数値自体は直ちに改善するものではないが、それだからこそ採用、育成、登用までのパイプラインの考え方をもとに施策や開示を見直し、この問題に対する姿勢や道筋を社内外に対して丁寧に説明し続けることが重要ではないだろうか。
今井 昭仁
London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。
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