「真冬の5合目に電車で行ける」 富士登山鉄道に賛否両論:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
2013年に世界文化遺産に登録された富士山。登録時に指摘された課題の解決策のひとつとして、山梨県はLRT方式による「富士登山鉄道構想」を推進している。対して富士吉田市は電気バスを推している。それぞれのメリット・デメリット、そして観光地として、世界遺産としての富士山について考えてみたい。
このままでは世界文化遺産取り消しの恐れ
会場となった「忍野村民ふれあいホール」は500席ある。オンラインやFAXで申し込んだ人は約80人で、担当者はしきりに前の席へ誘導したけれど、クチコミなどで当日参加した人も多く、見渡せば会場の3分の2ほど埋まっている。300〜350人といったところだ。関心の高さをうかがわせるけれど、インターネットアンケートに参加しない人だろうと思う。
忍野村の大森彦一村長、田邉宏哉村議会議長のあいさつに続いて、山梨県の説明が始まる。なんと、長崎幸太郎県知事が自ら登壇した。スライドを示しながら鉄道構想の理由から説明に入る。
13年にICOMOSが「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」を世界文化遺産に推薦するときに、3つの改善点が指摘されていた。1つ目は「適正利用について」。登山道の収容力に見合った来訪者管理が必要だ。2つ目は「環境保全について」。特に7〜8月に自家用車やバスが道路に大きな圧力を与え、排気ガスが懸念される。3つ目は「景観の改善」。簡単にいえば人工物が多すぎる。現在の5合目施設は景観と調和が取れておらず、富士山の神聖さや美しさを損なっている。
富士山の世界遺産登録については、過去に「世界自然遺産」の登録を目指していたけれども、観光地化されて人が多すぎることなどが指摘されたため、政府は登録申請を見送った経緯がある。上の3点がそれで、これを根本的に解決しないまま、対象地域と対象範囲を広げて「信仰と芸術」がテーマの「世界文化遺産」とした。そこでも再度、同じ懸念が示された。「世界文化遺産には登録してあげるけど、3つの約束を守ってくださいね」である。
ちなみに、世界遺産登録時の状況が悪化するとユネスコから「危機遺産」に指定される。現在の危機遺産は米国「エバーグレーズ国立公園」など56件。イタリア「ヴェネツィアとその潟」は22年、23年に危機遺産入りが勧告されている。登録要件が改善することなく、世界遺産としての価値が失われた場合は世界遺産登録抹消となる。登録抹消は過去3件あり、最新の抹消は21年の英国「海商都市リヴァプール」だった。周辺の再開発でガラス張りの高層ビルが建ち、景観が損なわれたという理由だった。
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