「真冬の5合目に電車で行ける」 富士登山鉄道に賛否両論:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/7 ページ)
2013年に世界文化遺産に登録された富士山。登録時に指摘された課題の解決策のひとつとして、山梨県はLRT方式による「富士登山鉄道構想」を推進している。対して富士吉田市は電気バスを推している。それぞれのメリット・デメリット、そして観光地として、世界遺産としての富士山について考えてみたい。
富士山はどうか。長崎知事は12年から19年までの5合目来訪者数のグラフを示した。ICOMOSが世界文化遺産登録を検討していた12年の来訪者数は231万人。この状況でも「人が多い」という評価だった。それが19年には506万人に膨れ上がった。ICOMOSとの約束は反故(ほご)にされている。
富士山登山者数は開山日の7月上旬から9月10日まで、8合目付近の登山道にカウンターを設置して計測している。12年は31万8565人(うち吉田口17万9720人)、19年は23万5646人(同14万9969人)となっており、こちらは抑制が効いている。ちなみに23年の登山者数は22万1322人(同13万7236人)となっている。22年は16万0145人(同9万3962人)だったから、コロナ禍を脱して19年の数字に近づいている。
富士吉田市の堀内茂市長は「登山者数は15万人くらいが限界(22年シンポジウム)」としつつ、「5合目の混雑は東京の繁華街のそれをはるかに超えており、ある程度整理が必要(同)」という見解を示している。年間では限界を超えていなくても、日単位では4000人を超える日があり、山小屋以外の場所で野宿するなど「登山者の過密」「弾丸登山」の危険性が海外でも報じられている。
5合目は前出の通り、年間来訪者が500万人を超えている。5合目まで到達できる時期は4月ごろから10月ごろまで。7月中旬から9月初旬はマイカー規制が行われるとはいえ、バスは規制されないため来訪者は多い。したがってピークは登山可能な7〜9月のほか、紅葉や大型連休などである。
堀内市長のいう「5合目の混雑は東京の繁華街」の結果、5合目は汚水処理や生活水が足りないという事態になっているそうだ。電力も内燃機関の自家発電に頼っており、電気機器を稼働させるほど排気ガスがでてしまう。世界の登山家からも「富士山はゴミの山」と呼ばれるほどだという。
そこで富士登山鉄道は、5合目来訪者の抑制を目的とする。登山者の抑制はまた別の話だ。長崎知事の講演はそこが曖昧になっていたと感じた。登山者が多いことは確かに問題だけれども、富士登山鉄道を開通させても、登山者の数は制御できない。5合目来訪者数のほうが多いからだ。
登山者数の規制については、山梨県が抜本的な対策を検討中だ。長崎知事が23年12月20日の定例会見で「5合目ロータリーと泉ヶ滝までの登山道を県道から除外した上で公園扱いとし、ゲートを設置して入山規制する」と説明した。ゲートは午後4時から午前2時まで閉鎖して弾丸登山を抑制するほか、開門から4000人に達すると閉門する。ただし「山麓から泉ヶ滝までの吉田口登山道」は規制せず、御師文化(信仰のための登山)再興に期待する。
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