「真冬の5合目に電車で行ける」 富士登山鉄道に賛否両論:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/7 ページ)
2013年に世界文化遺産に登録された富士山。登録時に指摘された課題の解決策のひとつとして、山梨県はLRT方式による「富士登山鉄道構想」を推進している。対して富士吉田市は電気バスを推している。それぞれのメリット・デメリット、そして観光地として、世界遺産としての富士山について考えてみたい。
架線のないLRT方式
山梨県の富士登山鉄道構想は、富士スバルラインを鉄道に転換する。既存道路上に路面電車軌道を整備し、地中に電気などのライフラインを整備する。このライフラインには電気のほか、上下水管、通信なども含まれる。線路は複線で、車両は低床タイプ(LRV)の5両編成だ。座席数は120で25編成を用意し、1日当たり152本を運行する。これは7月から9月までの富士山5合目来訪者を168万1605人と想定し逆算した数字だ。
ただし、富士スバルラインにはヘアピンカーブも多く、LRT車両では通れない部分もある。その部分はスイッチバック(鉄道が急勾配を克服するための構造)にするか、あるいはスバルラインの難所を少し迂回(うかい)させて、使わなくなった道路は埋め戻して自然に返す。
景観と環境を配慮して、架線柱と架線は設置しない。車両への急電は地表から行うと知事は説明した。これはフランスのボルドーで実用化された地表集電式を想定していると思われる。線路の中央に給電用レールを埋め込み、車体側から集電装置を接触させる仕組みだ。いわば地下鉄銀座線などで使われている第三軌条方式の路面電車版である。歩行者などが接触して感電しないように、常に車両の下だけ通電する。積雪や枯葉の堆積で集電装置がレールに接触できないという弱点がある。
このほかに非接触型の給電方式について、鉄道総合技術研究所や車両メーカーなどで研究が進んでいる。スマートフォンの「おくだけ充電」のようなシステムだ。EVの充電器としても研究が進み、実用化が待たれる。リニア中央新幹線の車両「L0系」で、車内の照明などのサービス電源用として採用された。鉄道車両の動力用電源の実用化には至らない。
さらに燃料電池や水素発電を使う方法もある。いずれにしても技術的には可能だが実用化は遠そうで、ここだけを見ても「夢の登山鉄道」という印象だ。未来の技術をアテにしてことを進めると手戻りが大きい。フリーゲージトレインで失速した新幹線西九州ルートや、燃料電池をアテにした川崎縦貫鉄道計画の例もある。慎重に進めたい。
所要時間は上り約52分、下り約74分。制動距離を考慮して下り電車は慎重に降りてくる。整備費は約1400億円を見込んでいる。ただし未確定の技術があるため、費用は精査する必要がある。
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