「真冬の5合目に電車で行ける」 富士登山鉄道に賛否両論:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
2013年に世界文化遺産に登録された富士山。登録時に指摘された課題の解決策のひとつとして、山梨県はLRT方式による「富士登山鉄道構想」を推進している。対して富士吉田市は電気バスを推している。それぞれのメリット・デメリット、そして観光地として、世界遺産としての富士山について考えてみたい。
電動バスの検証も必要
富士吉田市は「電動バスのほうが実用的」という考え方だ。道路はそのまま使えるし、専用道としてマイカーと観光バスを締め出せば良い。マイカー規制でもBEV(蓄電池車)とFCV(燃料電池車)はマイカー規制の対象外(ハイブリッドは規制)だった。電気トラックが実用化すれば物資輸送もできる。
山梨県は電動バスが向かない理由として「輸送量」「マイクロプラスチック」「エネルギー効率」「通行規制」などを挙げている。「輸送量」については、前出のLRTの座席数120、25編成、1日当たり152便と同じにするためには、バスの座席数25、104台、731便が必要になる。LRTの4倍の運転手が必要になり、バスは1分に1台発車するダイヤになる。バスの立ち客も含めると、定員77、33台、237便になるけれども、立ち乗り満員は安全とはいえないし、観光の質を考えると世界標準とはいえない。
「マイクロプラスチック」はタイヤカスである。欧州などでタイヤ粉塵に含まれるマイクロプラスチックが問題になっているそうだ。マイクロプラスチックは海洋汚染だけではなく、ペットボトル飲料にも含まれていることが問題になっており、摂取した人の血管に含まれていた事例もあったという。もっとも、鉄輪式鉄道もごく微量ながら鉄粉が出る。
「エルネルギー効率」は輸送人員1人当たりのバッテリー搭載量を問題としている。LRTは鉄輪式のためエネルギー消費量が少なく、下りのときに回生ブレーキでエネルギーを回収できる。電動バスも回生ブレーキを使えるけれども、長距離の坂を下るため、すべてのエネルギーを回収するためには大容量で重いバッテリーが必要になる。
「通行規制」についてはどうか。道路法、道路交通法によって法令に規定される理由がない限り、自動車の通行を規制できない。現状でもタクシーや観光バスはマイカー規制の対象外だ。電動バスはバスである限り、現在と状況が変わらないという。軌道法では路面電車の優先が認められる。
このほか、LRTのほうがバスよりも、乗り心地の上質感、年間を通じた走行、観光のシンボル性などで優位だという。
関連記事
- 年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。 - もはや東京郊外ではない!? 関東の鉄道新線は「県都」に向かう
東京都市圏も大阪都市圏も鉄道新線計画が多く、そのほとんどが通勤路線だ。東京の周辺都市は、鉄道の発達とともに「東京通勤圏」として発展してきた。しかし近年の鉄道構想は「県都通勤圏」の充実にあるようだ。神奈川県、埼玉県、茨城県、栃木県の県都アクセス路線構想を俯瞰(ふかん)してみた。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - 「リニア中央新幹線」の静岡は、いまどうなっているのか 論点を整理してみた
JR東海が建設中のリニア中央新幹線だが、静岡県が着工を認めない。静岡県も知事も建築反対のように見えるが、賛成の立場だという。そこでいったん立ち止まって、リニア中央新幹線とは何か、現在の論点は何かを整理してみた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.