300円ショップ好調の裏で 「100円死守」なセリアが苦しいワケ:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
物価高を背景に、ディスカウント型のスーパーを利用する消費者が増えている。多くの消費者がより安いものを求める中、100円ショップ業界ではある意外なことが起きている。
セリアが100円死守戦略を選ぶ理由
おそらくセリアもそんなことは百も承知なのであろうが、セリアの競争環境を考えれば、100円死守戦略を選ぶ理由も分からないではない。ダイソーが創り出した100均市場は、かつてはダイソー一強であり、2位以下の企業はその後塵を拝するという状況だった。そこをセリアが、10年代以降にPOS管理による商品管理と、おしゃれな女性向けの「Color the days(日常を彩るの意)」業態によって、単独2位として抜け出し、首位ダイソーに追走するようになった。
女性客の高い支持を背景に、セリアは食品スーパーやドラッグストアとの共同出店や、核店舗を食品スーパーとする中小ショッピングモールへの共同出店で店舗数を伸ばすことに成功。これが100円にこだわる背景にもなった。生活必需品を買う場所である食品スーパー、ドラッグストアのパートナーとしては、100均であることが求められる傾向にあるからだ。セリアがダイソーブランドに対抗しつつ、出店場所を確保していくためには、100均であることが重要だったのである(図表5)。
また、3位キャンドゥのイオン傘下入りも、セリアにとっては大きな将来の脅威となった。既にキャンドゥ以下のライバルを圧倒する力をつけていたセリアだが、流通業界の巨人・イオンのグループ力を背景にキャンドゥが商品開発力を拡充すれば、膨大かつ成長を続けるイオングループの店舗網から排除される可能性もある。首位ダイソーを追走しなければならないセリアは、出店余地を確保するためにも「100均」として、イオン以外のスーパー、ドラッグストアのパートナーであり続けることが重要だったのである。
セリアの戦略店舗であるColor the daysは、10年代には100均としては競合他社との差別化に成功し、大きく店舗を増やすことができた。しかし、100円というキャップが事実上はずれつつある今、多様な価格帯で品ぞろえを拡張したダイソーや3COINSに対しての優位性は薄れつつあるのかもしれない。
価格帯を多様化した業態が狙うターゲットは、「100均以上無印未満」のゾーンであり、雑貨業界の巨人・MUJIのマーケットをも削り取ろうとしている。「100均以上」の存在であったセリアの領域も、そのゾーンに含まれることになってしまった。インフレに転換した環境下で100円に固執すれば、原材料、人件費高騰に苦しむ取引先メーカーとの協力体制を揺るがす事態にもなりかねない。セリアの戦略がこれからどのように変わっていくのか、注目したい。
著者プロフィール
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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