実現すれば世界初? 特急車両に水素エンジンを載せる? JR東海と組んだベンチャーに聞く:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/9 ページ)
JR東海が2023年12月、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を公開した。鉄道の脱炭素の多くが燃料電池方式で、水素エンジンは鉄道業界では初耳。JR東海は、この水素エンジンをi Laboと開発するという。i Laboとはどんな会社か、さらに水素エンジンの仕組みと可能性などを取材した。
開発は「ROMチューン」
杉山: i Laboの設立は19年ですので、2〜3年で試作エンジンができたことになります。早いですね。エンジンは自動車メーカーから購入したのでしょうか。
小松: いえ、最初は中古トラックを買ってきました。その後、新品時のエンジンの寸法も計測する必要があって、新品も購入しています。メーカーは言えませんが、積載量は2〜4トン用で、運転免許だと中型、準中型のトラックです。
杉山: それを2年間、ものすごくがんばって水素化エンジンにされた。開発技術者は何人ですか。
小松: 当時は5人ぐらいですかね。甲府の開発拠点で、エンジン単体の実験環境で分析器などをつないでテストしつつ、エンジンを回すまではなんとかできた。問題は、トラックに載せて実用に耐えるエンジンとして機能させるために、パワーとトルクをきちっと出さないといけないということでした。
杉山: エンジンが回れば成功、というわけではないのですね。
小松: 昔のエンジンは、キャブレター(機械式のガソリン気化器)で燃料供給を制御していました。今のエンジンは、見た目はごついですが、ほとんどがコンピュータ制御なんです。エンジンの回転とターボも電子制御で、いろんなところにセンサーが入っていて、そのセンサーのうち1つでもエラーもしくは故障の信号を検出すると、エンジンランプが点灯します。
杉山: ドライバーが一番見たくないランプですね(笑)。
小松: エンジンランプが点灯すると「すぐに止めて、点検してください」「営業所に行ってください」という形になります。大型トラックといえども繊細につくってあって、ほぼ電子制御なんですよ。そして電子制御のコンピュータはメーカーの肝なので絶対に内容を開示しません。
杉山: 『OPTION』などのカーチューン雑誌に出てくる「ROMチューン」みたいなことをされたのですね。電子制御コンピュータのなかに入っているプログラムリストを解析して、数字と記号の羅列のなかから、「このあたりはあの部分を制御しているらしい」「それならここの数値を0Aから0Fにしたらどうか」みたいな。
小松: コンピュータに送られてくるこの信号は何を意味するのか、そこから理解しなければいけません。エンジンランプが点いても走ることは走りますが、ランプが点いたままでは、車検に通りません。
杉山: そうですよね。1からエンジンをつくっていれば、いらないものは始めからつけないけど、今あるエンジンを使おうという話なので、いらないけどつけておかないとマズい。
小松: (エラーを放置するとナンバーを取得できず)公道を走れなくなるので、運送会社さんが使えなくなってしまいます。ですので弊社としては、何か不具合があった時に、安全性を担保するための仕組みをいろいろと入れるんです。
杉山: エンジンだけの問題ではなくて、水素タンクからエンジンへ向かう配管を取り付けて、適切な混合気(空気とガソリンが混ざり合ったもの)を作らなきゃいけない。アクセルを踏んだら踏んだだけエンジンが回るように。
小松: そのアクセルも、昔のバイクや車は直接ワイヤーでスロットルを開けたり閉めたりしますが、今は全部電子制御なんです。
杉山: 仕上がった車は、改造車検を取るのでしょうか。
小松: そうですね。構造変更申請ですね。
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