実現すれば世界初? 特急車両に水素エンジンを載せる? JR東海と組んだベンチャーに聞く:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(8/9 ページ)
JR東海が2023年12月、鉄道車両向け燃料電池の模擬走行試験を公開した。鉄道の脱炭素の多くが燃料電池方式で、水素エンジンは鉄道業界では初耳。JR東海は、この水素エンジンをi Laboと開発するという。i Laboとはどんな会社か、さらに水素エンジンの仕組みと可能性などを取材した。
鉄道と水素エンジン
杉山: 今のノウハウで対応できそうなエンジンがたくさんあるんですね。HC85系に載せるエンジンも発電機ですね。
小松: そのノウハウを培って、今後、JR東海さんにいろいろフィードバックしていく形になります。
杉山: 車両に適合するか、安全基準はどうか。鉄道の安全基準は厳しいですよね。
小松: 人が乗って動くものですから、安全基準をきちんと満たす必要があります。ダイヤ通りに走る性能、乗客の安全性など、すべて整った段階で、JR東海さんの試験台車でテストする予定です。あとは水素をどこに積むか、ですね。
杉山: そこは一番悩ましいところかもしれません。JR東海さんは「屋根だろう」と言っていましたが、水素タンクって重そうですよね。
小松: 重心が高くなってしまうので、カーブ区間の安定性を考えると、上には置きたくないですね。
杉山: 重心は下げたいですね。でも床下だとタンクの交換が難しい。水素は充填(じゅうてん)ですか、タンク交換ですか。
小松: 充填で考えています。しかし床下にも機器がたくさんあって場所がなさそうです。
杉山: HC85系はディーゼルエンジンで発電して燃料は軽油ですね。同じ大きさの燃料タンクを使ったとして、航続距離はどちらが長いのでしょうか。
小松: 圧倒的に軽油のほうが長いです。水素に比べると同じエネルギーを取り出すための容量は小さいし、水素を液体にするためには冷却が必要ですが、ガソリンも軽油も常温常圧で液体として運べます。これに変わるものはありません。化石燃料ってすごいんですよ。
杉山: やっぱりそうなんですね。容量だけ見れば、気体より液体のほうが小さく運べます。液体水素になれば軽油に対抗できるのでしょうか。
小松: 液体水素も、圧縮効果で見ると2倍弱ですね。それをマイナス253度にして保冷し続ける機械も積まなければいけないので、これも大変です。保冷するためのエネルギー源をどうするかも考えると、もう本末転倒な話になってくるのですが、現在だと高圧ガスでしょう。水素の運搬についてはいろんなところで研究していますが、水素を液体に染みこませて、使うぶんだけ水素を取り出す装置をつけてやるとか。
杉山: いったん混ぜてしまったら、取り出しても純粋な水素ではないような気がします。
小松: でも内燃機関ですから、ほかの物質が多少混ざっても燃やせます。これが水素エンジンの利点でもあります。燃料電池で使う水素は純度99.99……%が必要です。
杉山: なるほど、化学反応と内燃機関の違いはそこですね。
小松: 水分がちょっと入っていようが、エンジンなのでバンバン燃えて動きます。だから海岸の近くなど塩害の心配がある路線とか、山岳などほこりっぽいところとか、そういった場所を走るには水素エンジンの方がいいんです。
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