マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/7 ページ)
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。なぜこのようなLSDを搭載したのか。歴代ロードスターが抱えてきたセッティング苦悩の背景から解説する。
前回の記事で、筆者が何を書いたかといえば、「ロードスターというクルマはどのモデルに乗っても普遍的な価値は変わらない」ということだった。ただし、クルマという工業製品は常に規制の影響を被るので、新たな規制によって、否応なく変わってしまうことがある。
過去において、歴史上のライトウェイトスポーツはそういった規制で魅力を失い、滅びていった。ロードスターの35年に及ぶ歴史は、各国市場によって求められる速度域の差と、衝突安全対策などの法規制を鑑みつつ、ライトウェイトスポーツとしての魅力をどう保ち続けるかの戦いであり、それを続けてきたからこそ普遍的な価値が変わらないのだ。
NA型から、NB、NCへの道では、法規制による重量増加に対抗するために出力を徐々に上げざるを得なかった。コンセプチュアルという意味では、ライトウェイトスポーツとしての純度が下がっていった苦渋の歴史でもある。
4代目となるND型ロードスターがデビューした時、そのコンセプトは原点回帰であった。それはつまり初代のNA型が備えていた軽量を生かした「ひらひら」と軽やかな身ごなしを、もう一度取り戻すことを意味する。法規制が緩かっただけでなく、NA型の時は前例もなく実績もないから、まさにエンジニアたちが作りたいように作れた。そしてNA型を作った人たちは、英国のライトウエイトスポーツをおそらく実地で知っており、その勘所を外さなかった。
少々大袈裟にいえば、ハードでスパルタンなレース生まれのロータス的なクルマではなく、もっと穏健で、生活に寄り添えるMG的な世界観を、あの人たちが選ばなければ、いまのロードスターの隆盛はなかっただろうし、マツダのものづくりも今と違ったものになっていただろう。
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