マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/7 ページ)
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。なぜこのようなLSDを搭載したのか。歴代ロードスターが抱えてきたセッティング苦悩の背景から解説する。
日英と米独で異なるロードスターへの要求
さて、ところがそうしてNA型がヒットすると、世界中のスポーツカーファンから言いたい放題の注文が押し寄せる。抗いつつもそれらに少しずつ押され、ロードスターは代を重ねるごとに、高出力化と高速化へと傾いていった。そして3代目NC型の先には、これ以上の高出力化・高速化の余地が残されていなかった。そういうスポーツカーはあってもいいが、それがロードスターかといえば違う。むしろそこから先はRX-7が司るべきマーケットである。
実はNC型の開発当時は、親会社フォードの意向もあって、RX-8との大幅な部品共用を余儀なくされた。ロードスターを存続させるためには仕方がなかったのだが、つまりロードスターは、ロードスターであり続けられる限界に一度達し、ある意味行き場をなくして原点回帰を志したのだ。
そのND型の成り立ちを俯瞰(ふかん)的に見れば、地域別の作り分けに踏み込んだ初めてのモデルだったといえるだろう。若干ステレオタイプな物言いになるが、スポーツカーに期待するものは日英と米独で異なる。この4カ国がなぜ出てくるかといえば、どこもロードスターの支持が高い、つまり製品の継続にとって大事なマーケットだからだ。
日本と英国は、主に時速50キロ程度のワインディングでの走りを求め、米独は時速100キロレベルの運動性能を求める。速度が違えばコーナー進入前のブレーキの強さが変わってくる。当然速度が低い方がやんわりで、速度が高ければ強くなる。その時、リヤタイヤの抜重レベルはどうしたって変わってくる。
マツダはNA型以来、ロードスターをひらひらと走らせるにあたって、ダイアゴナルロール、つまり対角線上のロールを積極的に使おうとしてきた(CX-60の記事も参照のこと)。それは以下の機序による。
- ブレーキによる減速で前輪荷重が増える
- 前輪の垂直荷重が増えて、タイヤの摩擦力が増加する
- 遠心力との合成により外側前輪の能力が向上して、クルマの向きが変わりやすくなる
つまりダイアゴナルロールによって、回頭性が上がるわけだ。素晴らしい。だが、その時リヤタイヤはどうなのか?
- ブレーキによる減速で後輪荷重が抜ける
- 後輪の垂直荷重が抜けて、タイヤのグリップが落ちる
- 遠心力との合成により内側後輪の能力が低下して、クルマの安定性が失われる
日英の速度域ならば、ブレーキの減速Gはタカが知れており、むしろ、ドライバーが前後荷重のバランスを考えたブレーキ踏力をうまくコントロールすることがスポーツドライブになり得る。
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