マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/7 ページ)
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。なぜこのようなLSDを搭載したのか。歴代ロードスターが抱えてきたセッティング苦悩の背景から解説する。
スタビリティをいかにして高めるかの歴史
しかし米独のような速度域だと少し話が変わってくる。速度が高いと強い減速時の荷重移動が大きくなり過ぎる。自在に減速Gを選べる場面ならそれでもいいが、特に、ウェットなど路面のコンディションが悪かったり、事故などの際の緊急回避的ブレーキを使う際には、フロントの荷重が増えるメリットに対し、リヤの荷重が抜けるデメリットが上回ってしまう。そこは絶対速度が低い日英とは事情が異なる。
だから米独からの要求は常に「スタビリティを上げてくれ」というものだった。そこでND型ロードスターがデビューした際、一番“素”のモデルである“S”は、日英好みの肩の力の抜けたスポーツドライブのための低速セッティングを施した。その上の“Sスペシャルパッケージ”は、ハイスピードを求める米独向けにダイアゴナルロールを若干抑制するスタビライザーとリミテッドスリップデフ(LSD)を追加。最も高速レンジを担う“RS”では、ミニサーキットユースに合わせてアシを固めることでロールを抑え、荷重移動よりも舵角で曲がるセッティングに仕立てた。
補足すれば、クルマという機械は基礎的な特性として、「前輪は曲がること」「後輪は直進すること」を担う。さらに、タイヤの能力は垂直荷重の増減に比例的に変化する。だから減速時に前輪に荷重を乗せれば曲がりやすく、加速時に後輪に荷重が乗れば直進性が高まる。
つまりND型は基本をこのクルマの世界観に対して忠実な、フロント優勢の曲がるクルマに仕立てつつ、ダイアゴナルロールを抑制するグレードを別途用意したという布陣だったわけだ。
だがしかし、原則通りということは、多少手当をしようとも、当然減速時にはリヤタイヤのグリップが薄くなって、クルマの姿勢に不穏な気配が出る。気配を感じ取れればそれなりの対処をしてやればいいのであって、そういうのを筆者は前回「至らぬところがクルマの可愛気」と書いたが、まあ至らぬところをスパイスにしようというのは厄介なオタクの所業であり、至らないところなんてないほうがいいに決まっている。
なのでマツダのエンジニアは、そういうクルマの至らぬところをどうしつけ直すかをずっと研究し続けてきたわけだ。もちろん「角を矯めて牛を殺す」では意味がない。いかにひらひらした挙動を生かしつつ、不穏な気配を消してみせるかの勝負となる。
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