マツダ・ロードスターの大改変 減速で作動するアシンメトリックLSDの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/7 ページ)
マツダのいうアシンメトリックLSDは、これまでのセオリーに反し、減速時の方をより強く拘束するというこれまでになかった発想のLSDである。なぜこのようなLSDを搭載したのか。歴代ロードスターが抱えてきたセッティング苦悩の背景から解説する。
KPCの効果をさらに高めるアシンメトリックLSD
過去にも記事化しているが、マツダは21年の改変で、ロードスターに、KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)という新たな電制デバイスを投入した。ロードスターはデビュー時よりリヤのブレーキ作動時に、車体を引き下げる“アンチリフト力”が働くサスペンションジオメトリーを採用していた。KPCはこれを生かしたシステムだ。作動条件は、左右後輪の回転速度差がある状態で旋回加速度0.3G。そういう旋回時に、ほぼ減速Gが発生しない程度に内側後輪だけに微小にリヤブレーキを作動させて、リヤサスのジオメトリーを使って内側後輪の浮き上がりを防ぐ。
要するに、減速時にダイアゴナルロールを抑制する仕組みだ。ちと言い方が極端かもしれないが、クルマが不安定になる時は、柔道でいえば、重心を浮かせて足裏の接地力が薄まったところで足を払いにいく。そういう状態に車両を持ち込まないように、重心が浮かない仕組みを織り込んだといえばイメージできるだろうか。
余談だが、“S”は、いくら日英向けに意図的に作り込んだ仕様だとはいえ、現実的にリヤスタビや、センタートンネルの強化ブレース、LSDなどが付かないことが、廉価版イメージを生み、いまひとつ販売がパッとしなかった。そこで、軽量ホイールや強化ブレーキなどを組み込んで、ちょうどポルシェにおけるカレラRSのような軽量スペシャルとしてブランド化したモデルが「990S」で、21年の改変でこのモデルが追加されるや大ヒットになった(990Sの記事参照)。なにしろ単月販売とはいえ、7年前のND型のデビュー時より台数が出たというからすごい。
前編で書いた通り、残念ながら規制対応の重量増加で990Sを名乗れなくなって、カタログ落ちしてしまった。今回のビッグマイナーチェンジでは、極論をいえば“S”以外のモデルへのテコ入れをすべく、新たなLSD「アシンメトリックLSD」を用意した。前述のKPCと併せて、ロードスターのひらひら感を損なわずに、課題だった減速時の不穏な挙動を消すことに挑んだ。
もちろんKPCの効果はあり、それだけ乗っていた時には十分に思えたのだが、今回の改良モデルに乗って、まだ改良余地があったことを思い知らされた。さて、LSDの説明から始めなくてはならないだろう。ちょっと難しいと思う人もいるかもしれないが、我慢してついてきてほしい。
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