バーガーキング「空き物件」発見で10万円――キャンペーンが生む巨大な「副産物」:「おもしろ広告」大解剖(2/2 ページ)
「バーガーキングを増やそう」キャンペーンには、出店戦略以外の効果もありそうだ。
リアルなニーズを吸い上げられる強み
バーガーキングは現在、全国に215店舗(2月5日現在)を展開している。同ブランドはもともと1993年に西武グループが日本に導入させたあと、運営会社が転々と変わっていった。
経営方針も迷走していたのか、2018年から19年にかけて店舗数は99店舗から77店舗に減少していた。そうした窮地から一転、業績を急激に回復させ、約3年間で店舗数を2倍に伸長させた格好だ。将来的な目標として28年末までに全国600店舗の展開を掲げている。
残り約4年間で約400店舗をオープンさせないと間に合わないペースであり、本キャンペーンもそうした大攻勢を仕掛けるための布石と見られる。
新規出店をするには通常、出店したい地域の交通量や人口統計データ、競合店の有無、地域の特性などの市場調査・商圏調査が必要になる。それらは全て、突き詰めれば「本当に客が来るのかどうか」を見極めるために行うものだ。
本キャンペーンでは、これまで間接的なデータで計っていた潜在的なニーズを直接吸い上げられる。応募が多いエリアを分析すれば、おのずとその地域における潜在的なニーズも明らかになるだろう。調査会社に依頼するよりもはるかに精度の高い市場調査をしているわけだ。
ブランドを「能動的」に意識させる効果
本キャンペーンが広く波及したことで、上記の出店戦略へのメリット以外の副次効果もあるはずだ。それはSNSでバズったという瞬間風速的なPR効果ではない。マス広告を超えるブランドイメージ浸透効果である。
そもそも空き物件を探すという行為は「ここにバーガーキングがあったらいいのにな」と、生活者の日常生活の中にブランドを強く意識させることになる。
ブランディング戦略では一般的に、生活者にとってその分野における「第一想起」に入ることを目指す。この第一想起に入るために、大手企業各社はマス広告に莫大(ばくだい)な予算を投じるのだ。しかし多くの予算を投じたとしても、CMなどのマス広告は消費者にとって、無意識に数十秒間目にする受動的な存在でしかない。
一方で空き物件を探させる本キャンペーンでは、興味を持った生活者は能動的に参加することになる。ネットや自らの足を使って物件を探す行為によって、CMなどとは比較にならないほどブランドイメージを長く、強く意識してもらうことになる。つまり本キャンペーンは、マス広告よりもはるかに低コストで、はるかに高い効果を持ったPR施策とも取れるのだ。
同社の広報担当者に、本キャンペーンにはこうした狙いもあるのか聞いたが、「特にございません。ぜひ多くのご紹介、ご応募をお願いいたします」という回答が得られたのみだった。それでもなお、思わず「深読み」したくなるような秀逸な施策といえる。
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