宇都宮のライトライン、東側の成功と西側延伸が必要な理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/7 ページ)
栃木県宇都宮市と芳賀町にまたがるLRT「ライトライン」が好調だ。路面電車としては75年ぶりの新規開業で、開業から5カ月で予想の1.2倍の約190万人が利用した。4月1日のダイヤ改正で所要時間短縮、通勤通学時間帯の増便、最混雑時間帯の快速運転を実施の予定で、宇都宮駅西口以西の延伸計画も動き出す。
東側の建設理由は「工業団地の通勤改革」
ライトラインは、JR宇都宮駅と宇都宮市西部の工業団地を結ぶ路線として建設された。沿線には清原工業団地、芳賀工業団地、芳賀・高根沢工業団地がある。ホンダ、キヤノン、カルビーなど、知名度の高い企業が進出している。これらの工業団地と宇都宮市中心部の間に鬼怒川がある。川があれば橋を架けるけれども、道路橋は自動車が集中し渋滞になりやすい。そこで軌道系交通アクセスが検討された。
JR宇都宮駅とその周辺から工業団地へ通勤する人々は、路線バスや企業の送迎バス、マイカーで通勤していた。バスは渋滞で定時運行が難しく、企業は時差通勤を奨励してマイカーの集中を防いだ。ライトライン開通後はバス路線が再編されたこともあり、バス通勤が減った。企業も送迎バスを取り止めた。マイカー通勤が減れば、工業団地内の駐車場も減らせる。駐車場は非生産的設備だ。駐車場を撤去できれば、その土地に生産設備や研究設備をつくれる。
清原地区には「ゆいの杜」というニュータウンがある。この街の住民も増加中で、周辺の工場に勤務する人だけではなく、宇都宮駅方面に通勤通学する人がいる。ライトラインにとっては工業団地とは逆方向の乗客を獲得できる。沿線の停留場付近には無料駐車場が併設されており、パークアンドライドでライトラインを利用する人がいる。需要の増加に応えるため、駐車場区画の増設が進められている。
路線バスはライトラインを軸として再編されて、平日1日当たり148本が増便された。ただし、ライトラインの3つの停留場を起点として新設されたフィーダーバスは目標水準に達していない。宇都宮市は需要の定着に3年ほどかかると想定しているようだ。デマンドタクシーで病院や商業施設などを利用できる「地域内交通」からも、公共交通機関の乗り継ぎ利用も大幅に増加したという。
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