優秀な女性が「管理職になりたがらない」 上司が着手すべき4ステップ(2/2 ページ)
近年、管理職を取り巻く環境はより厳しさを増しています。期待しているメンバーが管理職になるまでの道を上司はどのように整備し、サポートしていけばよいでしょうか。4つのステップに分けて解説します。
ステップ3:プレ管理職経験を通してポータブルスキルを磨く
本人の目指したいリーダー像が見え始めたら、管理職に向けて具体的な能力・スキルの開発に取り組みます。
管理職手前で身につけておきたいのは、実務的な専門知識や技能ではなく、業種や職種を問わず重要とされる、いわゆるポータブル(持ち運び可能な)スキルです。
例えば筆者が開発を担当する管理職手前の層向けの研修では、下記の6つのスキルに照らしてご自身のスキル状態を棚卸ししてもらっています。この6つのスキルは、多くの企業で管理職になるまでに身につけておいてほしいと考えられているスキルや行動を洗い出し、共通する要素を抽出してまとめたものです。
これに限らず、管理職手前で必要なスキルや行動が社内の等級制度などで規定されている場合はそれを参照しても構いません。
これらの管理職手前で必要なスキルや行動は「プレ管理職経験」を積むことで磨かれます。プレ管理職経験とは、管理職の業務や役割の一部を疑似体験できるような仕事です。例えば大型プロジェクトのリーダー業務、多様なメンバーや社外関係者に働きかける仕事、より責任の重い仕事や当事者意識が問われる仕事などです。
管理職に必要な能力・スキルは、Off-JTだけでは身につきません。実際の仕事経験を通じて磨かれます。どのような能力を高めたいかを本人と話し合い、その能力が磨かれる仕事経験を適切なタイミングで用意することが、上司の重要な役割になります。
ステップ0:上司自身が「リーダー観」「マネジメント観」をアップデートする
ここまで、管理職になりたくないメンバーへの対応を3つのステップで見てきました。これらの3つのステップはいずれもメンバーに対して上司がどう働きかければよいかを示すものですが、このステップに先立ち、実は上司自身が取り組んでおくべきことがあります。
それは、管理職である自分自身の「リーダー観」「マネジメント観」を見直し、必要に応じてアップデートすることです。
化粧品の製造、販売を手掛けるポーラで2020年に代表取締役社長に就任した及川美紀氏は、社長就任の辞令を受けたときに「及川さんには足らないところがたくさんある。だから社長になってもらう」と言われたそうです。及川氏は著書の中で、「足らないところがある私だからこそ、人の良さを見いだし、その人たちの力を今まで以上に発揮させることができるかもしれない」と考えたとつづっています(※)。
(※)『幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条』(及川美紀・前野マドカ著,日経BP,2023)より
このエピソードは、ポーラという企業や及川氏のリーダー観・マネジメント観をよく表しています。リーダーや管理職に完璧を求めず、むしろ足りないところがあるからこそ、人の力を引き出すことができるという考え方です。
もちろん、このような「観」は人によってさまざまで、正解はありません。しかし、上司のマネジメント観やリーダー観は、メンバーのマネジメント観やリーダー観に影響を及ぼします。
管理職は完璧でなければならない、誰よりも仕事に精通していなければならない、誰よりも長時間労働に耐えなければならないと考えている上司の下では、メンバーも完璧でなければ管理職は到底務まらない、なりたくない、と思ってしまうことが想像されます。
反対に上司が、管理職は完璧でなくていい、誰にでもその人らしいリーダーシップが発揮できると心から思っていたらどうでしょうか。メンバーが「それだったら自分にもできるかもしれない」と前向きに管理職の仕事を検討することにつながりそうです。
このような違いは、ステップ1〜3のどの場面でも、メンバーとのやりとりの中で表出します。自分自身が「管理職とはこうでなければならない」という強いこだわりを持っていると自覚できている方は、定期的に立ち止まって「本当にそうか?」「別の考え方はないか?」と自問自答してみてください。
上司がそれまでの考え方を見直し柔軟になることで、メンバーにポジティブな影響があるだけでなく、上司自身も少し肩の力を抜いてマネジメントができるようになるはずです。
著者情報:児玉結
リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に入社し、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員〜管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。
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