米国のイチゴ工場、200億円の資金調達 NTTや安川電機が認めた「日本人経営者」:植物工場の夜明け(2/2 ページ)
米国で「イチゴ工場」を運営する日本人経営者が、シリーズBで200億円を調達した。投資家の期待の大きさが数字に表れている。世界初となる「植物工場でのイチゴの量産化」に成功したOishii Farmの古賀大貴CEOに話を聞いた。
フェラーリではない トヨタやテスラを目指す
「希少価値が高いものを、安く作って高く売る」を選ばなかった理由について、古賀氏は「われわれはフェラーリを目指しているわけではなく、トヨタやテスラを目指しています。ニッチな市場で収益性を求め続けるのではなく、植物工場をメインストリームにしたい。そのためには、ある程度の消費者が買えるように価格を下げていく必要があるんです」と説明する。
ブランドの高さと価格の関係性についても持論を展開する。「価格が高くないとブランドが作れないか、というとそうではない。『一番おいしくて、一番安全で、ここの商品が一番いいよね』というブランドは価格に左右されない強さを持っています。なので、価格を落としても品質は決して落とさないをモットーに取り組んでいます」(古賀氏)
植物工場がメインストリームになることは、近年重要性を増す地球温暖化のストッパーにもなる。自然災害の甚大化により、農業用地は年々減少しているが、世界人口は右肩上がりで推移している。近い将来、新鮮でおいしい農作物を手に入れるのは限られた富裕層の特権になるかもしれない。植物工場は、そんな将来に待ったをかける砦になり得るのだ。
2月28日に発表した総額200億円の使い道として、古賀氏は「日本の農業・工業技術を基盤に、天候や風土、労働力不足に左右されずに、安全で高品質な作物を安定的にサステナブルに生産し、手ごろな価格で消費者に提供するために使う」と表明している。
具体的な使い道の一つとして、自動化やAIを活用したサステナブルな植物工場の建設を進める。電気や水を多く使用する植物工場でのサステナブルを実現するために、グリーンエネルギーの活用や水の完全循環システムを採用。その他、これまで目視で確認していた収穫時期の判定や、人の手で行っていた収穫作業などをロボットに任せていく。
Oishii Farmが創業時から独自に開発してきた、自動気象管理システム(湿度、温度、人参加炭素量、光の波長、潅水量など、作物の生育に最適な環境を人工的に作り上げるシステム)にテクノロジーを組み合わせることで、植物工場の進化が期待される。現在は、ニューヨーク近郊にしか工場を持っていないが、将来的にはアジアやその他の地域への展開も視野に入れているという。
日本の大手メーカーが断念した植物工場の再建に、難しいと言われたイチゴの量産化。この時点ですでにOishii Farmは大きな功績を残したと言える。同社の成功は、古賀氏の経歴やイチゴに目を付けた嗅覚、ブランド設計などさまざまな要因に支えられている。
その中でも特に大きいのは「植物工場という既存の技術が機能する市場を見極め、そこでビジネスモデルとブランドの確立に挑戦した」点ではないか。そこにOishii Farm独自の新技術を加え、事業を強固にさせているのは言うまでもないが、後発でも頂点を狙える可能性を示唆している。技術に最大のレバレッジがかかる市場を探り当て、そこで商売を始めることがビジネスを成功に導く一つの要因だということを示す好事例といえる。
米コンサルティングファームの調査によると、植物工場の市場規模は2028年に1億9600万ドル(294億円、1ドル150円で計算)に達するとの予測だ。
Oishii Farmが植物工場市場のトップランナーとして、農業市場をけん引する存在になる日もそう遠くはないだろう。294億円市場の「胎動」はすでに始まっている。
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