ゲームの海外展開で「文化や思想」どこまで配慮すべき? 法的にOKでも……:エンタメ×ビジネスを科学する(2/2 ページ)
時にはファンから「余計なお世話」と迷惑がられてしまう、ゲームにおけるローカライズ。ゲーム開発会社はどう向き合うべきか。後編。
保守的な対応が正解とは限らない
ではこれらの文化・価値観への対応を「保守的」に振り切ればよいかというと、そう単純ではない。ゲーム開発チームのオリジナルの魅力が損なわれる可能性があるからだ。ゲームのファンの中には、そのゲームメーカーがある国の文化や風習・価値観に基づいたオリジナルの表現を楽しむファンも多い。よって安全寄りに振り切った取り組みが最善とはいえない。
先の衣装の例においても、露出を控えめにした海外版ではなく、日本国内版を買い求める海外プレーヤーが一定数存在する。また逆の例として、残酷表現を求める日本のプレーヤーが、海外版のCoDを購入する例も少なくない。
このように、ポリティカルコレクトネス対応の面で最良のものが、収益向上の面で最適とは限らないことが、メーカーの対応を難しくしている。あちらを立てればこちらが立たずの状況である。
かつては対象市場を広げ、より多くの人へ届け、収益をあげることが目的であったローカライズであるが、近年は逆にリスク部分が増え収益面の足を引っ張りかねないケースも生じうる。
ゲームにおけるローカライズの将来像
本稿で紹介したように、ゲームのローカライズは単なる言語の翻訳を超え、文化的な背景や価値観を深く理解したうえでの対応が求められるよう変化してきた。
では、今後もより難度が上がるローカライズについてどう取り組むべきであろうか。機械学習などの活用で単純な翻訳は効率化できたとしても、文化的背景や価値観の反映を機械的に行うことは当面難しいだろう。
これまでと同様に、ゲームとしての魅力の核がどこにあるか把握し、そこに抵触しない範囲をコストに見合う範囲で対応するという微調整を繰り返していく他はない。
ポケモンにおいて、象徴でもあるピカチュウを世界中どこのバージョンでも「ピカチュウ」の音に統一したように、あえてローカライズを行わないゲームの核・本質の部分を見極め、「面白さを損なわないローカライズ」を探りつつける姿勢が求められるだろう。
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