ゲームのローカライズ対応 「おせっかい」とは言い切れない、これだけの理由:エンタメ×ビジネスを科学する(1/2 ページ)
「余計なお世話」「過剰反応」とファンの望まない形になるケースもしばしば存在する、ゲームのローカライズ。今後、業界はどうなるだろうか。
ゲームは海外に展開する上で、主に言語面のローカライズが不可欠なコンテンツだ。ローカライズとは、特定の地域や言語に適応させる工程であり、これによってゲームは開発国のみならず、幅広いプレーヤーに受け入れられる機会を得る。
今やローカライズは言語のみならず、各国・地域の習慣・価値観・文化に根ざした細かなニュアンスへの対応も行われている。例えば特定の地域で敬遠される表現やテーマが元のゲームに含まれていた場合、当該地域にて流通する媒体・配信されるコンテンツにおいてのみ、それらの表現を避け、異なる表現方法へ置き換えるといったケースもある。
このような表現方法の変更については、言語翻訳とは異なり「余計なお世話」「過剰反応」とファンの望まない形になるケースもしばしば存在する。本稿では、今後より困難な作業になるであろう、ゲームのローカライズについて考察する。
言語、文化、法律――多岐にわたるローカライズの必要性
一口にローカライズといっても複数の要素があり、対象とする地域・顧客層によって重要視する要素は異なる。ここではその種類・分類について整理したい。
言語への対応
ローカライズにおける最も基本的な要素であり、ゲーム内のテキストや音声・インタフェースを異なる言語に翻訳する作業である。直訳で済む部分もあるが、前後の文脈などに応じて翻訳先の言語で自然な表現にすることが求められる。会話・説明文以外で一般に分かりやすい例はポケモンであろう。
ヒトカゲ・リザード・リザードンといった日本人にとって「由来が分かりやすく、しっくり来る音」をそのまま海外に移植しても受け入れられづらい。よってcharcoal(木炭)+αをベースにCharmander・Charmeleon・Charizardといった「現地で由来が分かりやすく、呼びやすい音」に変えている。
文化への対応
ゲーム内で各国文化が反映されたもの、例えば祝日や歴史上の出来事の参照、社会的慣習や風習に基づいた表現を各国・地域の文化・風習に合わせて調整を行う。各国・地域のプレーヤーがスムーズにゲームの世界へ入り込むことができるようにサポートする要素である。
例としてドラゴンクエストにおける教会関連の表現がある。当初は日本のプレーヤーに分かりやすくするため十字架を各所に載せていたが、キリスト教を連想することを回避するため国外に出るに当たり十字架を五芒星などの他のマークに変更するなどの対応を行った。なお、このようなマーク・シンボルは例えば卍(まんじ)⇒ハーケンクロイツを連想するためNGといったように、どこに落とし穴があるか分からないため、要注意事項の一つである。
法律への対応
各国・地域の法律や規制に準拠するための対応であり、年齢制限や表現規制・各種データの取り扱いなど多岐にわたる。対応できなければその国・地域でビジネスを行えないため、必須項目である。アニメの例であるが、ワンピースのサンジがくわえるタバコがキャンディーに変更されたのが代表例の一つであろう。
国によっては喫煙シーンを映すことがNGであり、また欧州米国を中心に脱タバコの流れが加速していることもあり、タバコ関連の描写は注意点の一つである。また逆の事例、国外⇒日本で規制されがちなものとして、血しぶきなどの残酷描写へのレーティング対応がある。法的拘束力はないものの、有害図書類に指定されると条例違反による罰金が発生する可能性があり、コール・オブ・デューティ(CoD)など米国のシューティングゲームは日本向けに残酷描写を軽減したバージョンにて展開することが多い。
技術への対応
ハードウェアの違いや、ソフトウェアの互換性対応が該当する。普及するハードウェアやゲームプラットフォームが安定しつつある昨今、国・地域向けというよりも各プラットフォームへの対応が主である。かつては国・地域によって同系列のハードウェアでも仕様やOSに極端な差が見られるケースもあったのだ。
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