沖縄の観光産業が復調へ オリオンホテルが描く“反転攻勢”の戦略とは?:地域経済の底力(2/2 ページ)
オリオンホテルのビジネス現況などについて、同社社長の柳内和子氏と、親会社であるオリオンビール社長兼CEOの村野一氏をインタビューした。
「ジャングリア」とのシナジーも
コロナ禍が明け、沖縄のホテル業界はいよいよビジネス競争が激化する。外資系ホテルの進出も盛んだ。そうした競合とどう戦っていくのか。
まずはホテル オリオン モトブ リゾート&スパに関して、売りにしている一つが「地産地消」だ。柳内氏がオリオンビールに入社した2021年から原則として食材は沖縄産に絞っている。ここまで徹底したホテルはほぼないと柳内氏は自信を見せる。
「食材は本部から50キロ圏内のものを使います。そこで見つからなければ範囲を広げていきますが、基本的には沖縄に限定します。調達のための独自ルートも私たちは持っています。例えば、ある村の方が『おいしいものがあるよ』と教えてくれて、そこから直接仕入れることができる。さらに、その素材の生かし方を熟知するシェフを雇用し、お客さまに提供しています」
かつてはより質の高いものをと、全国から食材を取り寄せていた。しかし、それでは沖縄の豊かさを県外あるいは海外からの利用者に伝えることができないと、考えを改めたのだった。
もう一つの売りはロケーションだ。
「ホテルの北側には、フクギ並木と昔ながらの民家が残ったフォトジェニックな町があります。さらに、沖縄美ら海水族館や熱帯・亜熱帯都市緑化植物園など、一日では回り切れない観光名所が全て徒歩圏内にあるのですよ。北部エリアを観光する場合、交通の便が大きな課題ですけど、ホテルの宿泊者は空港からシャトルバスを利用して来ることができます」(村野氏)
この立地のアドバンテージが今後さらに大きくなる可能性がある。それは、25年に大型テーマパーク「ジャングリア」が開業する予定だからだ。名護市と今帰仁村にまたがるオリオン嵐山ゴルフ倶楽部の跡地に建設中のジャングリアは、ホテルから車で30分足らずの距離にある。
「テーマパークとの太い絆(きずな)が私たちにはあります。何しろあそこの土地を貸しているし、出資もさせていただいている。テーマパークに来られたお客さまの前後泊需要をうまく取り込んでいくための方策を(運営元の)ジャパンエンターテイメントとも話し合っていくつもりです」と村野氏は意気込む。
ビール好きの地元客でにぎわう
一方、オリオンホテル 那覇については、ビール目当ての地元客が足を運ぶ流れができつつあるという。
「ビアダイニングでは、とにかくビールを最高の状態で出しています。ビールは出来立てを飲むのが何よりもおいしい。その点で大手ビールメーカーと比較しても地の利がありますし、グラスや注ぎ方にもこだわっています。加えて、このホテルでしか飲めないクラフトビールを4種類、常時提供しています。オリオンビールのホテルが開いた店であれば行きたいというお客さまがかなりいます。これは差別化のポイントだと思います」
観光閑散期の11月下旬に開業したにもかかわらず、忘年会や新年会などで地元客が数多く利用したそうだ。実際、筆者が訪れた1月末の平日にも早い時間帯からスーツ姿の団体などがビールと食事を楽しんでいた。
宿泊に関しては、沖縄の観光客が増える3月末やゴールデンウィーク、夏休みシーズンに照準を合わせ、売り上げ拡大を図りたい考えだ。
人材確保はどうする?
一方で、目下の悩みは人材確保。これはホテル業界全体の課題であり、オリオンホテルも苦労が尽きない。そこで外国人の雇用にも力を入れている。ホテル オリオン モトブ リゾート&スパでは現在、技能実習生を含む外国人スタッフが20人ほど働く。これは全従業員数の1割ほどに当たる。
グループ企業からの出向も受け入れる。グループ全体での人事ローテーションが活発で、条件などが合えばビール工場勤務の社員がホテルで働くこともできるそうだ。それを促進するための人材育成研修プログラムもグループ共通で用意している。
幸い、オリオンビール自体は沖縄の人にとって就職人気の高い企業であるため、こうした社内の仕組みもうまく活用しながら、人材を確保していきたいと考える。
10周年を迎えるホテル オリオン モトブ リゾート&スパは、クラブウイング全スイートの改装などを経て、4月11日にリニューアルオープンする。名称も「オリオンホテル モトブ リゾート&スパ」に変更する。
本部と那覇。新たに生まれ変わった2つのホテルで、沖縄の高まる観光需要を一気に取り込んでいく。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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