EVブームにブレーキ? “黒船”BYD「日本で毎年、新車種を提供」:「BYD ドルフィン」の販売目標は未達
世界市場でのEVブームにブレーキがかかりつつある中、中国BYDの日本法人であるビーワイディージャパンの劉学亮社長は、日本市場でのEV販売増に強い意欲を示した。
米アップルが2月、電気自動車(EV)の開発中止を発表した。EVで先行してきた米テスラは米国や中国でEVの価格を引き下げ、ゼネラル・モーターズ(GM)はEVの新モデルの発表を延期。世界市場でのEVブームにブレーキがかかりつつある。
そんな中、EVの生産販売で快進撃を続けている中国のBYD(比亜迪)は3月に都内で開いた「2024戦略発表会」で、日本市場での総括と今後の見通しを明らかにした。EVブームに黄色信号が灯る中、ビーワイディージャパンの劉学亮社長は、一層の販売増に強い意欲を示している。
2年連続でグローバル首位
劉社長は「23年はグローバルで302万台の新エネルギー車を販売し、22年に続いて1位だった。累計販売台数は650万台になり、今後も新エネルギー車を世界市場に提供し続ける」と話した。これまでの結果を評価し、今後についても強気の販売姿勢を示している。
BYDは23年1月に日本に進出。ディーラー網を拡充するなどして販売を伸ばしてきた。15年から販売してきた電気バスについては約200台を販売。国内EVバスでは70%以上のシェアを持っている。世界市場でも23年第4四半期は、EVの販売台数でテスラを上回るなど、いま最も伸びているEVメーカーだ。
日本市場には「毎年、新しい車種を出すことを約束する」と話す。BYDの車のラインアップがそろってきたことで、日本のあらゆる消費者に選択肢を広げ、認知を高めたい考えを明らかにした。
「300万円のEV」販売目標は大幅な未達 今後の戦略は?
昨年1年間の日本での販売実績についてBYD Auto Japanの東福寺厚樹社長は「ゼロからスタートしたことからみて、登録台数が1446台というのは、そこそこの数字だ」と年間の販売台数を評価した。一方、23年9月に発売し「300万円のEV」と話題になった小型EV「BYD DOLPHIN(ドルフィン)」については「248台にとどまり、(24年3月までの)目標の1100台には届かない」と話し、目標は大幅な未達に終わる見通しだ。
「型式指定を取るのが遅れたためで、全国のディ−ラーに十分に供給できなかった。6月に予定している(セダンタイプの新型EV)『BYD SEAL(シール)』の発表と同時に型式指定が取れるようにし、販売機会を損失しないよう準備していきたい」
販売網については、23年の2月に販売1号店をオープンさせ、現在は全国に51のディーラーネットワークを展開。22のショールームがある。
中国本土で販売しているプラグインハイブリッド(PHV)の日本での発売は、検討していないことも明らかにした。BYDとしてはEVブランドのさらなる浸透を図っていく方針だ。
「2月までの数字を見ると、累計の受注台数は2000台に達し、登録台数も1700台弱にまで伸びてきている。一般的に3000台から5000台の販売に達すると、街中でも『最近よくBYDを見るよね』といわれるので、早くそのレベルに持っていければと思っている」(東福寺社長)
EVのリセールバリュー(中古車価格)についても、改善に期待感を示した。
「初期のEVのバッテリーは劣化が激しくて、5〜10年経過すると最初のころの性能の半分くらいになる。従ってガソリン車に比べるとリセールバリューが低くなっているのは事実だ。しかし、テスラや日産自動車の新しい『リーフ』にしても、バッテリーの寿命が長くなり、5〜10年後のバッテリー残量も高くなってきている。EVが普及してバッテリーを心配しなくてよいという認識が浸透してくれば、EVだからといって一律にバリューを低くみられることはなくなる」(東福寺社長)
EVブームにブレーキ? 「流れは変わらない」
世界市場でのEVブームにブレーキがかかりつつある変化について劉社長は、これまでと同じ姿勢で生産、販売することを貫く考えを強調した。
「EVが何をもたらしてくれるのかという大きなスケールの中で、インフラやライフスタイルにどう影響するのかなどを総合的にみていくと、この世界的なEVの流れは変わらないと思う。世界市場で認められてきたBYDの技術や商品を提供し続けていく」
日本市場に関しては、変化が起きている見方を示した。
「当社の調査によれば、これまで日本の消費者はEVを拒んできたのではなく、選べる車、ラインアップがなかっただけだったことが分かった。しかしこの1年間、営業活動をしてきたことで、選べるようになってきたと思う」
発表会では、マイナーチェンジをした「BYD ATTO 3(アットスリー)」を披露。車内ディスプレイを大きくするなど操作性と視認性を向上させた。販売価格は従来より10万円高い450万円に設定している。
24年が正念場
日本市場でのさらなる販売増を目指す戦略を明らかにしたBYD。日本に進出して2年目を迎える同社としては、日本のEV市場で存在感を発揮できるかどうかの正念場を迎えることになる。一方、日本メーカーは、トヨタ自動車が26年に世界で年間150万台、30年には350万台のEVの販売を計画しているといわれ、出遅れていたEVに本腰を入れて新車を投入する予定だ。
日産と三菱自動車が共同開発して22年6月に発売した軽自動車EVは、補助金を使えば200万円を切るお手頃価格になるため、発売1年で受注台数が5万台を突破。低価格車が受けている。
こうした日本メーカーの反撃姿勢について東福寺社長は23年10月のITmedia ビジネスオンラインが実施した単独インタビューで「トヨタなど主要メーカーがEVを出してくる25、26年までに販売の基盤を築いておきたい」と話した。その意味で、今年はトヨタなどが攻勢をかけてくる前にBYDとしての販売基盤を築けるかどうかの試金石になりそうだ。目の肥えた消費者が多い日本市場で、どこまで存在感を発揮できるかに掛かっている。
中国のEV市場は減速
ブルームバーグによると、世界最大のEV市場である中国では今年、23年に続き減速すると見通しだという。景気悪化が最大の原因だ。
全国乗用車市場情報連合会(乗連会)によると、バッテリー式電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車の出荷台数は、24年は前年比25%増の1100万台と予想されている。増えてはいるものの、23年の36%増、22年の96%増からは伸び率が低下しているのだ。
中国スタートアップのEV企業では経営に行き詰まるところも出てきている。24年の中国市場のEV販売が、どこまで勢いを維持できるかもポイントとなりそうだ。
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