オフピーク定期券「値下げ」の迷走、なぜ売れない? どうしたら売れる?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
JR東日本は3月5日、「オフピーク定期券」のサービス拡充と値下げを発表した。割引率が約10%から約15%になり、ポイントサービスも拡充される。すでに20万人の利用者がいるが、報道によると予想を下回っており、値下げでテコ入れするらしい。値引きすれば売れるのか。
結果は予想を下回った
新型コロナウイルス感染症の「5類」の引き下げは23年5月8日からだった。行動制限はなくなった。コロナ禍の終わりの始まりだ。通勤定期が割り引きになれば、企業は通勤手当を減額できる。割り引きは歓迎されるはずだった。しかし、JR東日本の見込みを下回ってしまった。
オフピーク定期券の予想と実績について、報道をもとにまとめてみた。
現在の定期券利用者の5%に相当する乗客がオフピーク定期券の利用にシフトする
【関連記事】JR東日本、来春から「オフピーク定期券」 山手線などで(22年9月16日、日本経済新聞)
オフピーク定期券の購入率は、3月が通勤定期券購入者全体の5%、4月は6%でわずかながら伸びた
【関連記事】JR東の「オフピーク定期券」スロースタート、4月購入率は6%…勤務先の理解も普及のカギ(23年6月6日、読売新聞)
日経新聞では5%の見込みだったが、読売新聞は6%だ。成功したように見える。しかしこの記事には
JR東の試算では、通勤定期券の17%がオフピーク定期券に移行すれば、ピーク時の通勤客を約5%減らすことができる
という記述もあり、JR東日本の理想はもっと高かったようだ。ところが発売後1年の時点で、
対象となるエリアでこの定期券を購入したのは20万人ほどで目標の半分程度にとどまっています
【関連記事】JR東日本の「オフピーク定期券」 割引率拡大へ 購入者伸び悩み(24年3月12日、NHK)
販売目標は年間約40万人分だったことが分かった。その半分に達していない。さらにNHK記事の気になるところは以下だ。
購入者は、そもそもラッシュ時間帯以外に乗車していた人がほとんどで、混雑緩和の効果が期待していたほど見られていないということです
JR東日本の目論見は、「ピーク時間帯の通勤客のうち、約40万人がピークシフトする」だった。しかし実際には、もともとオフピーク時間帯の利用者が買った。つまり、割り引きする必要のない人に割り引きをした。通勤定期券は値上げしているので、全体的には減収になっていないし、ピークシフトしないぶん減収を避けられた。しかし混雑解消に役立っていない。いや、通勤需要が回復してくれたのに、オフピーク定期券をつくったばかりにそのぶんが減収になっている。大失敗ではないか。
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