AIを車載「DSオートモビルがChatGPTを全モデルに搭載」って一体どういうこと?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
タイトルだけみてもさっぱりわからないであろう記事になる。まずDSオートモビルというブランド自体に知名度がない。そこへ持ってきてChatGPTという、極めてふわっとした先端テクノロジーが結びつくのだから、何がしたいのかがなかなかピンとこない。これはどういうことか?
国を代表する国産車DS
こうした国を代表する高級車の欠落を補完するために、DSが法人化されたのは14年。極めて新参のブランドなのだが、国の威信を背負う責務があるという意味で、極めて難しい立ち位置である。
PSA時代のDSは高級車を作りたくとも、手持ちの最大サイズのプラットフォームがCセグメント。トヨタでいえばカローラをベースにレクサスLSを作らなければならないという無理難題である。シャシーもエンジンも高級車として十全とはいえない中で、彼らが見出したのは、極めてクセの強いデザインと、アバンギャルドな装備である。
さて、話は一度シトロエンの歴史的モデルに遡る。シトロエンは高級車でこそなかったが、極めて個性的な技術を採用する先進性の高いブランドであった。そもそもDSオートモビルの由来となった1955年デビューのシトロエンDSは、自動車史の異端児とさえ言えるクルマで、かつてのシトロエンの代名詞であった空気バネと油圧を用いた「ハイドロニューマチック・システム」によるサスペンションを筆頭に、車体のピッチングやステアリング操作に連動して光軸を保つヘッドランプなど、革新的な新機軸をこれでもかと盛り込んだアバンギャルドなクルマであった。
特にFFレイアウトとロングホイールベースで直進性を担保し、フロントのトレッドをワイドにリヤをナローに設定してフロントの限界を上げつつ、リヤの限界を下げて旋回時の回頭性を確保する特異なジオメトリーと、そこに前述のハイドロ・ニューマチックを組み合わせた前代未聞のサスペンションは、直進安定性と回頭性を両立しつつ乗り心地も追求するという、自動車の性能として根本的に相反する課題への全く新しい回答であり、こういう革新性が「シトロエン=前衛的」というイメージを生み出した。
DSは、シトロエンのこの前衛的イメージを核に、トヨタに対するレクサスのようなシトロエンの上位ブランドを構築している。間もなく新世代のシャシー群が登場して、少し話が変わってくるかもしれないが、問題は今の手持ちシャシーにはそういう前衛的な仕掛けを薬にしたくともないことだ。となればデザインでそこを突破する以外に方法がない。
関連記事
- 自動車記事を書く時の3つのポイント
今回のお題は「自動車記事の書き方」。批判をする時は真剣な愛か怒りを持ってすべし。面白がってやらない。自分を立てるために書かない。そういう大方針の上に、一応の手順というのがある。基本形としては、自分がクルマの試乗に行く時の時系列を順に文字化していけばいい。 - フランスの高級車復活に挑むDS7クロスバック
戦後のフランスでは高級車のマーケットが激減。その結果、大衆車をメインとするメーカーだけが残った。2014年に設立したDSオートモビルズは、シトロエンの上位ブランドとしてフランスの高級車復活に挑んでいるというが……。 - 「DS3 クロスバック E-TENSE」 100年に渡る物語が導いたEV
本稿は、米欧2地域にまたがる世界第6位の自動車メーカーが誕生するのに至った歴史的背景の興味深さをひも解くと同時に、この度日本への上陸を果たしたPSAのフラッグシップブランド「DS」のEV、DS3クロスバック「E-TENSE」の立ち位置を解説しようという目論見で書かれている。E-TENSEEにはリアルな未来の先取りを感じるのである。 - 400万円オーバーのBセグメント DS3クロスバック
一般に高級ブランドというものは、長い歴史があり、ブランド論がとやかく言われる前から「高級品」として世の中にイメージが共有されているものである。DSは2010年代という、技術もマーケティングも高度に発達した時代にこれに挑もうとしている。そこは大変興味深い。DS3クロスバックがこれにどう挑むのか。 - Dセグメント興亡史
Dセグメントはかつて日本の社会制度の恩恵を受けて成長し、制度改革によって衰亡していった。その歴史を振り返る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.