AIを車載「DSオートモビルがChatGPTを全モデルに搭載」って一体どういうこと?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
タイトルだけみてもさっぱりわからないであろう記事になる。まずDSオートモビルというブランド自体に知名度がない。そこへ持ってきてChatGPTという、極めてふわっとした先端テクノロジーが結びつくのだから、何がしたいのかがなかなかピンとこない。これはどういうことか?
車載ChatGPTの出来
DSに搭載されるシステムは、既存の組み込みインフォテイメントシステムに「SoundHound AI」社の音声認識プラットフォームをインタフェースにして、通信でChatGPT3.5と接続するものだ。質問に対しての処理は、SoundHound AIが受け持つ場合とChatGPTが受け持つ場合、さらにナビが受け持つ場合に分かれる。その分岐条件がどうなっているかは、一概にはいえないということらしい。技術者は何度もやっているとどれが答えているか見当が付くようになるとは言うが、果たしてユーザーレベルでそれが分かるかどうかは何ともいえない。少なくとも筆者には全く分からなかった。
もう一つ、例えば今日の為替や株価などリアルタイムの情報が求められるケースも、あらかじめ学習済みのデータから情報を得るという3.5のシステム上、回答不能になっている。それと車両制御システムをハッキングから守るためもあって、車両に関わる操作、例えばライトやワイパーから、ADASの設定に至るまで、クルマの運転に属する操作はできない。
インフォテイメントとなれば、例えば「海が見える駐車場へ行きたい」というような問いに対して、正しく、かつ有用な答えが出るかどうかも何ともいえない。実際のところ、長距離の運転や渋滞中に、助手席のパッセンジャー代わりに、おしゃべりを楽しむような使い方になるだろう。試みに「ドナルド・フェイゲンの楽曲の内、ベストの曲は?」と尋ねてみると以下のリストが上がってきた。
"I.G.Y. (What a Beautiful World)"
"New Frontier"
"The Nightfly"
"Maxine"
"Walk Between Raindrops"
"Ruby Baby"
"Green Flower Street"
"Tomorrow's Girls"
"Century's End"
"Morph the Cat"
おそらくは長期的にみれば、現在のスマホのように、自動車側のOSがオープン化されて、多様なアプリケーションに対応するようになり、ユーザーが選択したアプリをインストールして、アプリとのインタフェースとして、より精度を高め、守備範囲を広げたChatGPTが橋渡しをするようになるのだろう。
今回のDSによるChatGPT搭載は、そういう未来に備えて、まずは何ができるかより先に生成AIを搭載してみたということだと思う。それはちょうどiPhoneがデビューした時、「それで何をするのか?」はメーカー側で定義されておらず、そのシステムを見た多くのサードパーティや、ユーザーが使い方を編み出して行ったようなものであり、その先に何が生まれるのかはその時になってみないと分からない。
DSというブランドが、クルマの中での過ごし方をゼロから作り出していこうという姿勢は、そのブランドイメージ通りまさに先進的であることは確かだ。ただしそれは、現時点での有用性をベースに語るものではないのだと思う。
プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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