「アジアでBEV出遅れ」は好機になる? 日本車が再び選ばれるようになる理由:高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)
タイの日本車ディーラーが中国や韓国のブランドに乗り換える動きが続出しているようだ。しかし、勢いのあるアジア勢と比べて、慎重なのが日本車メーカーの成功の理由とも言える。性能や使い勝手で再び日本車が選ばれるようになる可能性も大いにあるだろう。
日本車メーカーは「慎重すぎる」という見方もあるが……
BEVはこれからも確実に普及が進むモビリティである。しかしほとんどの自動車ユーザーに対して利便性が低いということ、安全性を確保したメーカーが十分ではないという点を考えると、本格普及は時期尚早なクルマだとも言える。
タイの自動車市場はまだまだ成長分野であるから、積極的に投資を行い、勝負に出る経営者も多いだろう。そして、富裕層の中には目新しさや見た目の高級感、充実した装備、割安な価格などで中国製、韓国製のBEVを選ぶケースも出てくる。
これを日本車メーカーが出遅れている、慎重すぎると見る向きもある。確かに日本の自動車メーカーの姿勢は慎重に見えるかもしれない。それは中韓メーカーがチャレンジャーであるから当然のことでもあるし、日本車メーカーが成功してきたのは慎重であるからなのだ。
しかし後発メーカーだから、発火事故などのリスクを踏まえても新興国市場にEVを積極投入するというのではない。そもそもリスク管理、品質管理の意識が日本より低いから、販売するハードルが低いのも理由なのである。
したがって1年、2年と市場を見ていけば、必ず潮目が変わるタイミングが訪れるはずだ。なぜなら、最初に飛びついたユーザーの評価が現れて、本当の実力があらわになる。
カタログデータやちょっと試乗したくらいの印象では分からない、信頼性や使い勝手、耐久性などが分かれば、SNSなどで評価があっという間に広がるものだ。もし品質が低ければ、BEVは命に関わる機械だけに「安物買いの銭失い」どころか命まで失うことにもなりかねない。
一般のユーザーにとって、クルマは10年も20年も乗り続けるものではなく、新興国でも富裕層なら2、3年で買い替え、あるいは増車するだろう。その時に再び選んでもらえるブランドであるかが重要なのだ。
中国では渋滞による大気汚染対策にBEV以外の車両の走行を曜日によって規制している地域もある。そうした規制を回避するためにセカンドカーとしてBEVを利用している富裕層が多いようで、遠出する時にはガソリン車やハイブリッド車を利用する。
そうした方法なら不便は少なく、故障やトラブルなどがあっても、ある程度は許容できるかもしれない。しかしBEVだけで全ての移動を済ませようとするユーザーは、数年乗っている間に何度も不具合が出たり、下取り価格が恐ろしく低下したりすれば、それだけで懲りてしまうはずだ。
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