「アジアでBEV出遅れ」は好機になる? 日本車が再び選ばれるようになる理由:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
タイの日本車ディーラーが中国や韓国のブランドに乗り換える動きが続出しているようだ。しかし、勢いのあるアジア勢と比べて、慎重なのが日本車メーカーの成功の理由とも言える。性能や使い勝手で再び日本車が選ばれるようになる可能性も大いにあるだろう。
着実に歩む日本車メーカーに期待
すでにBEVブームが終焉(しゅうえん)したとか、日本のやり方が正しかったとか、トヨタの全方位戦略に間違いはなかったと、もろ手を挙げて称賛する報道を見かける。そんな報道には今更感を感じるのは筆者だけではないはずだ。
ただ、そもそも全方位は当たり外れがないので、正しいと言えるものではない。開発には膨大なリソースが必要であり、トヨタほどの規模があってこそ可能な方法であることは確認しておきたい。
それでもトヨタだけが日本の自動車メーカーではないし、日本の自動車メーカー以外も懸命に頑張っているのが現状である。エンジニアと経営陣の姿勢は必ずしも一致しないけれども、世界中のエンジニアは知恵を振り絞り汗を流している。
日本企業しか情報が届かず、海外メーカーの詳細な状況まで把握できないが、どこも現場のエンジニアはその仕事に全力で挑んでいることは間違いないのだ。
日本車メーカーに視線を戻すと、日産とホンダの提携は衝撃的であり、今後の展開が面白くなった。ホンダまでトヨタグループに入ってしまうのは面白みがない(外野が好き勝手言うなと言われそうだ)のでこの提携はアリだと思ったが、「敵の敵は味方」という論理での提携がうまくいくのか、期待を持って見守っていきたい。
マツダやスバルは、パナソニックの電池子会社パナソニックエナジーとEV用円筒型リチウムイオン電池の今後の供給に関して契約を結び、確保する姿勢をみせている。
三井物産は米国の資源会社アトラスリチウムコーポレーションに出資し、今後5年間でBEV100万台分のリチウムを確保した。三菱商事もカナダのフロンティア・リチウムが設立する新会社に出資し、2027年から工業用リチウムの生産を始め、30年にはEV用リチウムを生産する計画だ。バッテリー素材の確保はエネルギー安全保障の観点からも重要な要素なのだ。
まだクルマの電動化は序盤を越えたばかりといった状況だ。日本の自動車メーカーは慎重ではあるが、確実に環境性能と安全性を高めたクルマを提供し続ける。
タイの自動車市場でも、再び日本車メーカーが席巻するのか、欧州メーカーや中韓メーカーのBEVが急速に信頼性や品質を高めていくのか。今後も、静かだが激しい販売競争が繰り広げられる新興国市場を見ていきたい。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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