「転勤はイヤ、配属ガチャもイヤ」――若手の待遇改善のウラで失われるもの:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
若年層が昭和的な人事制度に「ノー」を突き付けるアンケート結果が明らかになりました。電通の調査によると「転勤はイヤ」「希望通りの配属先を確約してほしい」とする就活生は双方約9割にのぼります。若手社員の待遇が改善され「あれもイヤ、これもイヤ」と言える環境になった背後で、失われているものもあります。それはどんなものかというと……。
転勤経験者が見せる「人間の不思議な本性」
でも、かれこれ20年以上、1000人近いビジネスパーソンにインタビューをして“生きた声“に耳を傾けていると、「人は変わるし、みんな『変わった自分』が結構好きなんだぁ」とつくづく感じるのです。
一方で、「変わらない自分」あるいは「変われない自分」に罪悪感めいた気持ちを抱き、不安を吐露する人たちがいました。人はみな「昨日よりちょっとだけいい自分」にあこがれるのです。
おそらくそんな心の動きが関係しているのでしょう。転勤の経験が、自分を成長させたと考える会社員は実に多く、年齢や性別に関係なく「行ったこともない土地」で、「未経験の業務」を任された経験を、ちょっとだけ誇らしげに語ります。
ある人は「戸惑いは少なからずあったけど、転勤先では自分でなんとかするしかなかった。でも、失敗するたびに、私を応援してくれる人が増えていった。それが楽しくてね」と笑い、ある人は「最初はよそ者扱いされて不安だったけど、関連会社の社長さんが本当によくしてくれてね。その人から僕は自分で考えて動くことの大切さを学んだんです」と懐かしがりました。
また、ある人には「役職定年などを迎えると『古戦場めぐり』する人は多いですよ。私もやっちゃいましたから(笑)」と教えてもらいました。彼は孤軍奮闘した転勤の地を訪れ、その界隈をさまよう行動を“古戦場めぐり“と呼んだのです。
古戦場とは、言い得て妙です。
役職定年などになると「会社員アイデンティティ」が揺らぐため、かつての人間関係の中に自分の居場所を確認しようと心が無意識に動きます。行きつけだった飲み屋でママさんが振る舞う手料理や、それを肴(さかな)に飲んだくれた常連たちへの懐かしさに加え、「私」を認め、「私」を必要としてくれた場所に惹かれるのです。
「転勤=悪で」はない。問題は……
むろん「転勤」にはタイミングもあるので、いろいろな受け止め方があることは否定しません。
しかし、人生はまさかの連続であり、変わっていくのが人生です。変わっていない、あるいはこれからも変わらないというのは幻想でしかない。変わるのが嫌だと、自分の希望しない「転勤や異動」を拒否するのは、実は未来の可能性を狭めているようなもの。
変わらないことは停滞であり、後退でもあります。人は変わるからこそ、前に進めるし、成長できる。少なくとも私はそう考えています。
会社に人生を決められるのは嫌だと思うかもしれませんが、ものは考えようです。会社が勝手に「住む場所、日常接する人、1日の時間の流れ」を変えてくれることを受け入れると、「私」は確実に変わるのです。そんな「まさか」も人生の大きな糧になるのではないでしょうか。
いずれにせよ「転勤=悪」ではありません。問題は転勤だけさせて「あとはよろしく!」と突き放す会社です。
今は転勤をサポートする福利厚生も含めたさまざまな制度を、企業側も整備していますから、成長の糧である転勤を利用してやる! くらいの気概で、ポジティブに捉えてほしいです。
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