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AI時代の「生き残りスキル」 子どもの教育にまで影響?グッドパッチとUXの話をしようか(1/2 ページ)

AI時代における「生き残りスキル」については、さまざまな分野で語られています。その影響は、小中学生の教育にまで及んでいるように感じます。一緒に考えてみましょう。

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連載:グッドパッチとUXの話をしようか

「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。

 「新型コロナウイルスの影響により、毎年当たり前のように実施していた学校行事が2年連続で中止になったし、新潟や能登半島の地震のように、明日何が起こるかは誰にも分かりません。だから僕は、今できることを全力でやることにしました」

 これは、先月筆者が参加した中学校の卒業式で、卒業生代表の一人が発表していた言葉です。

 世界各地で起こる戦争や天災、ウィルスの脅威や環境破壊による気候変動、生成AIの進化……当たり前や常識という概念が非常に脆(もろ)くなっている現在。15歳でも、現状や未来を見据え、自分自身がどう動くべきかを考えて行動していることに、とても感銘を受けました。

 もちろん、子どもによって情報の受け取り方や感じ方は異なりますが、こうした変化を目の当たりにすることが、子どもたちの考え方や行動を効率化させる方向に助長していたり、価値観の形成に影響を与えたりしています。とりわけ生成AIは学校教育や子どもたちに求められる力も変化させつつあることをご存じでしょうか?


生成AIが学校教育や子どもたちに求められるスキルをも変えている(画像:ゲッティイメージズより)

 子どもたちの教育環境にどのような変化があるのか。親に求められることとは何か。AI時代に生き残っていく人になるために身につけるべき力とは何か──今回は、子どもたちを取り巻く教育環境の変化から、ユーザー体験を軸に「AI時代に必要な力」を考えていきます。

義務教育の枠を超える ニーズを捉えた競争に

 今や小学校は、子育て世帯の物件購入や引越しの大きな判断材料となっています。家から学校までの距離はもちろん、先生の評判や中学受験率、ICT教育やグローバル教育にどの程度力をいれているかなど、各校の内情までリサーチする方も少なくないのだとか。

 小学校受験は幼いころから幼児教室に通わせる必要があり、私立小学校の場合は6年間高い授業料を支払ったり、場所によっては公共交通機関を駆使して遠方まで通う必要があったりするため、公立小学校を選ぶ家庭がまだまだ多いのが実態です。

 そうした中で、進学や物件購入に合わせて評判の良い公立小学校の学区内に転居したり、通学区域外の小中学校に通う「学校選択制」を活用して、公立小学校を選択したりする家庭も増えています。

 学校選択制を導入する学校が増えた背景には、いじめによる転校に対応したり、特定の学校に子どもが集中してしまうことを避けたりといった行政側の事情がある一方で、東京23区や大阪府などでは「少しでも質の高い教育を受けさせたい」と思う保護者が制度を利用するケースも増えているそうです。

 文部科学省による調査では、小中学校における2022年度の不登校児童は30万人弱にも上り、前年度から22%以上増加しています(参照:PDF)。この数字は過去最高で、「最低限の教育の質の担保」にも工夫が求められているようです。


不登校児童は増えており、2022年度は過去最高だった(画像:文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」より)

 企業が提供する商品やサービスにおいては、これまで単一だったモノの競争環境が激化し、「ユーザー体験」を意識したものづくりが当たり前になってきていますが、学校教育にもその波が押し寄せているのかもしれません。

 筆者の古い記憶を呼び起こすと、公立小中学校では学習指導要領で定められた内容が、全国どこの学校でも等しく実施されてきました。それが義務教育の質の担保であり、長年続いてきた日本の文化・仕組みでもあります。

 一方で、各家庭での教育意識の違いをベースに、インターネットの普及も相まって、学校に求めるものの価値観も加速度的に多様化しています。基本的には無償で義務教育が受けられるとはいえ、子どもや保護者の「ニーズに応える」対応がより学校にも求められているのが実態なのではないでしょうか。

 こうした対応をすでに実施している公立小中学校もあります。

 東京都世田谷区立の小中学校の「ほっとルームせたがYah!」という制度を紹介しましょう。不登校またはその傾向があり、オンラインによる支援を希望する小学生・中学生を対象に、区がタブレットやパソコンを支給し、動画で授業を受けることができるというものです。子どもたちや保護者の悩みも相談できるほか、ほっとルームを学校内の教室以外に設け、学校に少しずついける環境づくりの支援もしているそうです。

 また長崎県長崎市の中学校では、「不確実」「予測困難」ともいわれる次の時代を、自ら考え、生き抜く力をつけるため、生徒の主体性やコミュニケーション能力を重視した授業を実施しているといいます。授業中は生徒同士がアドバイスをし合う時間を大事にしており、漫才をしたり、企業向けに商品開発のプレゼンテーションを行ったりするなど、他者からフィードバックを得て「どう改善していけばよいか」といった考え方を尊重する教育を実践しているそうです。教師はAI教材を活用し、生徒ごとの理解力を把握するよう務め、定期テストは実施せず、単元ごとに学びを振り返る確認テストを実施しているのだとか。

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