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「コープデリ宅配アプリ」月10万DL増 紙注文がメインだったのに、なぜ?リテールテックの最先端

食材宅配サービスを運営する、コープデリ生活協同組合連合会は2024年2月に宅配アプリをリニューアルした。これまで2つの課題により、なかなか利用率を上げられてこなかった。にもかかわらず、リニューアル後から月10万DLを記録しているという。なぜなのか?

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 注文を受けた食材や日用品を玄関先まで配達する「食材宅配サービス」を運営するコープデリ生活協同組合連合会(埼玉県さいたま市)。ボリュームゾーンは50代後半だが、20〜80代まで幅広い層が利用しており、2024年4月時点で、関東信越1都7県の536万人が加入している。

 昔は紙のカタログと注文書による運用がメインだったが、時代の変化や利用者のライフスタイルに合わせてWebやアプリでも注文ができるよう工夫をしてきた。そして2024年2月19日、宅配アプリ「コープデリアプリ(以下、旧アプリ)」をリニューアルし、新たに「コープデリ宅配アプリ(以下、新アプリ)」をリリースした。


2024年2月に新しいアプリをリリースした(画像:以下、グッドパッチ提供)

 UI/UXデザイン会社のグッドパッチ(東京都渋谷区)がパートナーとなり、UI/UXを始め機能を大幅にアップデートした新アプリ。リニューアル以降、アプリダウンロード数は右肩上がりに増えているという。

 そんなコープデリのアプリリニューアルの裏側を知るため、コープデリ デジタルイノベーション推進 統括部長の石井亮氏と部長の森本綾子氏、グッドパッチ クリエイティブディレクター/UIデザイナーの栃尾行美氏に話を聞いた。

ロイヤルカスタマー層の高齢化 EC環境を整え新規開拓を狙う

 コープデリは、2018年3月に初めて「注文専用アプリ」をリリースした。この旧アプリ内にはWebカタログは搭載されておらず、レコメンド機能も限定的だったものの、約5年間、特に大きなアップデートもなく運用されてきた。

 注文用紙による受注がメインのため、旧アプリやWebサイトを含めたEC経由の購入率は4割を下回っていた。その中でも旧アプリは客単価が最も低いチャネルだったが、「課題感はあったものの、大きな問題はなく何か大幅に手を加えることはしていなかった」(森本氏)という。

 しかし、サービス利用客は年々高齢化が進んでおり、若年層を含めた新規利用者を獲得するためにはアプリを含むEC利用率の向上は避けては通れない課題である。石井氏も「利用者拡大のためにECツールの充実が不可欠。スマートフォンの普及率を考えると、紙のチラシから利用を始める人は少ない。若年層を中心に、ECの利便性を十分に訴求できる環境を整備していくことが大切だと認識している」と話す。

 こうして白羽の矢が立ったアプリだが、新規開拓の起爆剤にするだけでは意味がない。その後も、事業にとって重要なチャネルとするためには、「客単価の低さ」と「紙カタログからアプリへの移行」という2つの課題を解決する必要がある。

 次から、コープデリがどのような改善をしていったのか見ていこう。

なぜアプリの客単価は低いままだったのか

 課題を解決するには、その原因を明確にしなければならない。まず「客単価の低さ」についてだが、その理由の一つが「ついで買い」要素が少ないことだった。

 石井氏は「目的買いが主となっており、チラシを見ながら『買い物体験』を楽しむというよりも、必要なものを買うルーティンっぽくなってしまっていた」と振り返る。

 また、森本氏は「全世代における1週間の客単価平均は、アプリ経由が他の注文手段と比較して1割ほど少ない」という。食料品数で換算すると、2品分に相当する金額差で決して無視できない。「年代別で多少の違いはあるが、アプリ利用者の過半数を占める30〜40代の客単価が目標に届いていないのが課題」と分析する。

 こうした状況を踏まえ、新アプリにはついで買いを促進し、商品との偶発的な出会いを創出することを重視した。グッドパッチの栃尾氏は「トップ画面に特集コーナーを設け、週替わりの特集や取り扱い商品を案内する導線を意識した。また、ジャンル別に商品を一覧で見られるようにするなど一覧性も重視した」とし、「買い物の楽しさを体験してもらうため、商品一覧からワンタップでカートに追加できるアニメーションも採用した。カート内に入っている商品を画面下部に表示させるため、自分が何を買ったのかも視覚的に分かるようになった」と話す。


視覚的な分かりやすさを意識した作りに

 まだアプリはリリースしたばかりということもあり、大きく購入率が上がったとは言えないものの、「北海道フェア」や「GW特集」など企画内容によっては売り上げに結び付いているという。

 また、過去の購入履歴に基づいてレコメンド表示をしたり、セール情報を発信したりもできるようになった。石井氏は今後、レコメンド表示の精度をより高めていきたいと意気込む。「現在は過去に購入経験のある商品をリマインドする形だが、これからは過去の購入商品から類推して、ユーザーが気に入りそうな商品を提案していく」

 アプリ経由でデータを蓄積することが、客単価向上につながる大事な一歩となりそうだ。そう考えると、もうひとつの課題である「紙からアプリへの移行」を解消することが鍵となる。

Webへの移行 キャンペーン価格を起点に提案

 コープデリはEC利用率70%を目標に掲げている。だが、カタログ注文に慣れてしまったユーザーを、Webへ移行するきっかけをつくることに苦戦しているのが現状だ。

 そこで今年度は、シンプルにWeb注文のみに適用される割引キャンペーンを始めた。組合員が、商品を届ける際にWeb注文のメリットを直接伝えやすくなる。キャンペーン価格を提案の起点にし、そこから注文のしやすさなどアプリならではの利便性を伝え、ECの活用を推進する。

 また、EC利用率が高まれば、紙配布によるコスト増を抑えられる。紙代は毎年値上がりしていることに加え、印刷コストも高い。物価が高騰している中でユーザーの買い物に価格転嫁することは避けたいという強い思いがあり、これまでは社内でコストカットに奔走していた。

 物価高騰による価格転嫁であれば、丁寧に説明すればユーザーも理解を示してくれるかもしれない。だが今後も、価格転嫁は避けたいと考えているからこそ、今回のリニューアルを機にEC利用率を一層高めたいという思いだ。


キャンペーン用にWebカタログも作成した

DL数は月10万増 今後はパーソナライズ機能を強化

 今後のEC化の方向性について、石井氏は「今後はパーソナライズ機能の強化に注力する。将来的には、一人一人に最適化されたパーソナライズ可能なECの実現を目指す」とし、森本氏は「将来的には顧客属性に応じたレコメンドの実現を目指しており、例えば子育て層向けに育児用品をおすすめするなどのアプローチを考えている。まだ個々人に合わせたおすすめは実現できていないが、過去の購買データをベースに改善を進めていく方針」と話した。

 現在の新アプリのダウンロード数は月10万件ほど増えており、前年比130%を記録しているという。まだリリースされたばかりのアプリということもあってか、Apple・Googleのアプリストアでの評価は安定しない。だがダウンロード数が増加したことから、ユーザーの新アプリへの期待が高いことがうかがえる。パーソナライズ機能をはじめ、今後の新アプリの進化に期待したい。

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