クルマの“顔つき”はどうやって決まる? デザインに表れる思惑とは:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
自動車のフロントマスクは各メーカーにとって重要な要素だ。ブランド戦略によってその方針は異なる。海外メーカーには、デザインの継承を重視しない姿勢も見られる。一方、国内メーカーも方針はさまざまで、デザインから各社の思惑も見えてくる。
フロントマスクへの制約は増加
フロントマスクが規制や機能で制約を受けることも現代のクルマでは増えてきた。昔は空気抵抗やヘッドライトの照射範囲、5マイルバンパー(米国の安全基準で5マイル=時速8キロまでの衝突であればバンパーが衝撃を吸収する構造)などの問題くらいで、デザインに対する制約は少なかった。
現在のヘッドライトは、プロジェクターランプやLEDランプにより小型・薄型になってデザインの自由度は高まっている。ただし、衝突安全性のためにボンネットやバンパーにはさまざまな制約が課せられるようになった。
ボンネットは衝突時に衝撃を吸収するようエンジンとの空間が義務付けられているし、バンパーエプロン部分も歩行者を巻き込まぬよう一定の突き出しと強度が求められる。対歩行者対策としてダメージを最小限に抑える工夫がされているのだ。またミリ波レーダーなど衝突を防ぐためのセンサー類の配置も範囲が限られる。
空気抵抗を抑えるためにラジエターグリルの開口を小さくしたり、グリルシャッターを設けて空気の流入を調整したりするクルマも増えている。その上で、フロントマスクがデザインされているのである。
もっともフロントマスクに限らず、誰にでも好まれるデザインに仕上げることは極めて難しい。人の好みはさまざまで、デザインの評価は分かれるからだ。いかに優れたデザインでも、好みが分かれることはある。
前述のマツダの魂動デザインにしても「最近のマツダ車はどれもカッコいい」と思う人もいれば、「最近のマツダ車はどれも同じように見える」(=区別がつかず好きではないという意味)という人もいるようだ。
万人に受け入れられるようにするには、当たり障りのないデザインにするしかなく、それでは熱烈なファンを生みにくい。かつてのトヨタが80点主義というクルマ作り(デザインだけでなくクルマ全体の開発や生産)を行っていたのは、無難な作りとすることでアンチを生まず、コストもかけすぎないでリーズナブルなクルマを提供するのが目的だった。
それを経て、現在のトヨタは大胆なデザインも取り入れて、こだわったクルマ作りを進めている。ハイブリッド技術など、他社にはない強みを持っていても、やはりフロントマスクをはじめとするデザインも重要なのだ。
中国の新興メーカーなどは、欧州車や日本車のデザインを模倣しているケースもあるが、しっかりとしたメーカーは外国人デザイナーを雇い、独自の優れたデザインを作り上げるようにもなってきた。
今後EVが増え、また自動運転技術が高度化して普及していくと、クルマの顔つきは変化していくだろう。それぞれの自動車メーカーの姿勢がフロントマスクには表れるはずだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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