私たちはなぜ「黒い箱」に高級感を感じるのか “高見え”の正体に迫る:令和の無駄学(2/2 ページ)
なんとなく、「黒い箱」って高級感を感じませんか? 世の中には“高見え”を意識した商品がたくさん存在します。この“高見え”とは一体何なのでしょうか?
高見えの正体 なぜ私たちは高級感を感じてしまうのか
では、この“高見え”とは一体何なのでしょうか?
そもそも“高見え”とは「実際の値段より高そうに見えること」ですが、このコラムではポジティブに、「より商品の魅力を引き立たせている」という意味で使用しています。
なぜ私たちは“高見え”パッケージに高級感を感じてしまうのでしょうか。いくつかの例とともにひもといていきましょう。
まずは、1つ目の例で出した「厚みや立体感を感じられるしっかりした箱」に入ったクッキー。想像してみてください。同じクッキーでも、なんとなくしっかりした箱に入っている方が高級そうだと感じるのではないでしょうか。
ここで、私が注目したのはパッケージの「テクスチャー」です。
テクスチャーは、パッケージ表面の質感などを表現する際、視覚的に重要な要素になっています。例えば、リネンや木材などナチュラルで柔らかい印象を想起させるテクスチャーであれば、そこから温かさや快適さを感じるものです。厚紙や立体感を感じられる素材からもたらされる質感は、柔らかく親しみやすいというよりは、“硬さ”からくる、しっかりしてハイクオリティなイメージではないでしょうか。
このように、私たちは目で見て感じる要素から、触覚的な要素をはじめとした、さまざまなイメージを抱くものです。そう考えると、テクスチャーを工夫して視覚的に“硬さ”を感じさせることは、高級感イメージを醸成するのに役立っているのかもしれません。
ちなみに“硬さ”に関する研究(※)で面白い実験があります。
容器の硬さがミネラルウオーターの味覚評価に与える影響を調べた研究で、参加者に硬いコップとやわらかいコップそれぞれで同じミネラルウオーターを飲んで味を評価してもらいました。すると同じ中身であっても、硬いコップで飲んだ時にはやわらかいコップで飲んだ時に比べてミネラルウォーターの味を高く評価するという結果になったのです。同じ水にもかかわらず、飲んだ人がコップの“硬さ”によって無意識のうちに味覚評価にまで変化をもたらしているのは、興味深い結果ですよね。
※:JAPAN MARKETING JOURNAL Vol.35 No.4(2016) 『「硬さ」と「重さ」の感覚と消費者の意思決定‐身体化認知理論に基づく考察‐」より
続いて、2つ目の例で出した「黒色などシックな色合いでまとめられた」焼き菓子は、どこが“高見え”ポイントなのでしょうか。
これはやはり、色の持つ効果が大きいのではないかと思われます。色彩心理学によると、色にはそれぞれイメージや雰囲気、感情などを喚起させる効果があり、例えば黒色には高級感や重厚感、紫色には上品や高貴といったイメージを喚起させられるといわれています。
また色の数や彩度も押さえておきたいポイントです。色数は少なく、彩度は下げることで高級感イメージ醸成に影響を与えると言われています。
3つ目の例で出した「ジュエリーのように一粒ずつ取り出せる工夫」がされたチョコレートの“高見え”ポイントには「余白」が影響しているとみられます。これはホワイトスペース効果といい、余白があることで生まれるゆとりから、高級感やスマートさ・洗練された印象を受ける効果のことです。
意外と何かを加えるのではなく、何かを捨てる引き算の考え方が高見えにおいては大切になってきているようですね。
高見えをつくる方法
このように、人は想像以上に視覚からさまざまな情報を受け取り、商品以外の部分でも良しあしを判断しているようです。安直に考えると、厚紙などしっかりした素材を使用したり、余白のあるデザインにすることは、パッケージをシンプルにする場合に比べるとコストがかかってしまう可能性があります。そうすると、この効率化が求められている社会に置いて、企業側のコストパフォーマンスは決して良くないかもしれません。
そんな中で高見えするパッケージを採用する裏には、パッケージという商品以外の情報から、高品質で信頼感のあるブランドイメージを抱いてもらおうという、ブランド価値向上まで見据えた企業の隠れた狙いも含まれているのではないでしょうか。
そう考えると、いかに生活者に“高見え”を感じさせられるかは、商品やサービスを提供する側や企画者にとって、重要なマーケティング活動の一環の気がしてきませんか?
“高見え”をつくる方法の一例としては、これまでご紹介した「テクスチャー(質感)にこだわる」「色(色味、数、彩度)にこだわる」「余白をつくる」という方法があります。
例えば街中のコンビニやスーパーで売られている安価なパンを“高見え”させるとしたら、何ができるでしょうか?
一例として黒色をベースとした厚紙で作られたBOX型のパッケージを開発。BOXを開けると、まるで高級時計のように中心にパンを配置し、パッケージの表面には金色の文字で商品名を記入するといった方法が考えられます。
もしくは、「大理石の上にパンが置かれている」というイメージで商品棚を大理石柄に変更。個別のパンのパッケージデザインは色味をシンプルに統一し、売り場全体で余白を持たせる陳列にする、という方法も検討できるのではないでしょうか。
ブランドとの親和性や相性はもちろん考慮する必要があります。しかし、“高見え”という一見無駄にも思える部分に目を向けてみることで、競合商品との差別化やブランドイメージの構築などにつながる糸口が見つかるかもしれません。
著者紹介:金田彩佳(かねだ・あやか)
関西支社第一ビジネスデザイン局第一プラニングチーム/ヒット習慣メーカーズ メンバー
2017年に博報堂入社。大阪生まれ大阪育ちのマーケター8年目。ヘルシー&ビューティー関連が大好き。最近新しい“推し”と出会ってしまい、日常生活がとても活き活きしています。
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