「一蘭」幹部に聞く カップ麺「一蘭 とんこつ」の開発で譲らなかったこと:地域経済の底力(1/2 ページ)
福岡市発祥のラーメン店「一蘭」で働く社員には、基本的に肩書や役職がない。組織運営の独自性が企業としての強さの源泉になっている。
福岡市発祥のラーメン店「一蘭」で働く社員には、基本的に肩書や役職がない。
理由は、年齢や上下関係などに気を遣うことなく、風通しの良い組織にしたい。そうした思いがあるからだという。今回インタビューした一蘭ホールディングスの山田紀彰氏は、事業統括責任者という立場だが、名刺にはHR、給与、財務などと役割だけが羅列してある。
これだけではない。その他にも一蘭の組織運営には独自性がある。それが企業としての強さの源泉になっているのだろう。前編に引き続き、具体的に見ていこう。
100以上の項目から成る「フィロソフィル」
同社には現在、670人ほどの社員がいるが、その多くが店舗アルバイト出身である。
山田氏も学生だった20歳の頃、アルバイトとして働き始め、そのまま就職して社員になった。4年ほど店舗スタッフを経験した後、店長に昇格。福岡市内の店を転々とした。そして約15年前に財務・経理の担当として本社勤務となり、今に至る。
なぜこのようなたたき上げのキャリアを重視するのか。それは「理念教育」と関係する。
「会社の理念を理解した上で、それを接客や調理など店舗の運営に生かしていくことが求められます。(アルバイトで)長く働いてくれている方や、入社意欲がある方は会社に対してもう既にロイヤリティーが高いし、われわれとベクトルが合っているので、こちらとしても教育がしやすいのです」
一時期は外部からも意識的に人材を採用していたこともあったが、「こんなはずではなかった」といったミスマッチも少なからず起きていた。そのような背景もあり、結果としてアルバイト出身者が大半を占めるようになっている。
では、その理念教育とはどういうものか。
一蘭には「Philosophy'll(フィロソフィル)」という言葉がある。これはPhilosophy(哲学)とWill(志)を掛け合わせた造語で、吉冨学社長が考案。「何のために事業を行うのか」「どのようにして仲間を導いていくのか」など、企業としてのあるべき姿を説いている。
フィロソフィルの詳細については非公開だが、実に100以上の項目があるそうだ。社員は毎日その中から一つを選んで、日報などに書き込むことをルーティンとしている。
また、店では始業前に「私たちの生活は一人のお客さまがわざわざ足を運び、一杯のラーメンを食べていただくことで成り立っています」というような唱和を行うそうだ。さらに同社には、「See The World」という社歌もある。
「こうした取り組みが徐々に馴染んでくるんですよね。その上で行動に現れて、プライドに変わるんですよ。例えば、ミスをそのままにしていてはいけないとか。仕事にこだわりが生まれてきて、職人気質のようなスタッフが育っていきます」
日常のこうした取り組みによる理念の浸透が、一蘭の組織をより強固なものにしている。さらに言えば、フィロソフィルの共有なくして、真のビジネスパートナーになることは難しいのかもしれない。これは店舗運営にも通じる話で、国内外全てフランチャイズではなく直営店である。
また、海外店舗は日本と同じスタイルで、味も基本的には変えていない。それでも、米国、香港、台湾それぞれの国で受け入れられている。特に台湾での人気は絶大だ。
「2017年に1店舗目をオープンしました。その当日は雨でしたが、お客さまがかなり並んでくださっていました。それどころか、この24時間営業の店には13日間、行列がいっさい途切れず、常に満席状態が続いていました」
なお、台湾では物価高に関するニュースを報じる際、しばしば物価指数として一蘭のラーメン価格が引き合いに出されるそうだ。それだけ現地の人々の生活に深く入り込んでいるのがよく分かる例だろう。
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