「ソリューション営業」はもう古い! これからの時代に求められる「インサイト営業」の有効性:前編(3/4 ページ)
日本では長年、ソリューション営業が正義とされ、課題解決型の営業アプローチが求められてきました。一方昨今米国では、市場動向や顧客状況の力学に迅速に適応し、顧客が自覚をもしていない未知のニーズを解き明かす「インサイト営業(Insight Selling)」が新たな営業スタイルとして注目を集めています。日本で正攻法とされていたソリューション営業は限界を迎えているのです。
「インサイト」とは何か
そもそも「インサイト」とは何なのでしょうか? マーケティングやデザイン思考では、“これまでにない新しい視点での物事の見方”、“言葉に表れていない本音”を指します。
セオドア・レビット氏が提唱する「ドリルの穴理論」で、「顧客はドリル自体を購入したいのではなく、ドリルで穴をあけることが目的。つまり、製品を売るのではなく、顧客がその製品を使って達成したい目的や解決したい問題に焦点を当てるべきだ」と主張しています。これは製品中心から顧客中心へとマーケティングのパラダイムをシフトさせるものでした。
しかし、現代ではこの理論だけでは不十分な気がしています。“顧客の顧客”である消費者の行動、生活様式、世代による価値観の違いがあらわになり、デジタル技術の活用が進む中で、顧客の潜在ニーズを超えた「深いインサイト」を得ることが重要になってきています。単に顧客ニーズを満たすだけではなく、感情的、社会的、心理的なニーズにも応える必要がでてきたのです。
これらは本質的な欲求であると同時に、顧客自身が認識できていないことがほとんどです。例えば、DIYをしたいというお父さんに「なぜ、 DIYで棚を作りたいのですか?」と聞くと「趣味だからです。休日の晴れた日にガーデニングを楽しみたいからです」など、自覚している感情や欲求のみ語られる場合がほとんどです。もう少し、そのお父さんに共感し、その背景に思いを巡らせると「ガーデニングの棚を自作したという充実感」「植物の成長をわが子のように見守る親心」など、インサイトを捉えることができます。
インサイトを捉えることで、潜在ニーズを顕在化し、結果として行動の変化を促すことになります。自覚している潜在ニーズは、深堀り質問で顕在化できますが、自覚がない潜在ニーズはいくら聞いても出てきません。ですから、顧客との面談や現場で起きているファクトを通して、インサイトを自ら作り出す必要があるのです。
インサイト営業でいう「インサイト」は、顧客が自分自身のビジネスや市場について気付いていない、未発見または未活用の情報や知識(ナレッジ)を指します。
例えば、顧客から「この課題を解決したい」と言われたとしても、その背景やデータから明らかになっているファクトをもとに深堀りし、顧客自身が見落としていた視点を提示することで、解決すべき課題の本質を捉えなおすことが重要です。
顧客の反応としては、「気付いていなかったけど、言われてみればそうだな」という感じでしょうか。このインサイトを捉えることで、単に製品やサービスを売るのではなく、これらの深い洞察を通じて顧客に一目を置いてもらい、信頼関係を築くことができます。
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