カツオが食べられなくなる? 水産資源の「獲りすぎ」防ぐサプライチェーンの最前線(1/3 ページ)
水産資源の乱獲が問題になっている。世界で漁業資源とされる業種のうち、資源量に余裕があるとされるのは全体の1割以下だ。水産資源の「獲りすぎ」を防ぐ、サプライチェーンの最前線を解説する。
大衆魚の代表だったサンマの大幅な値上げ、サケやイカの不漁、そしてマグロやウナギの資源の枯渇──最近、海の恵みであるさまざまな魚介類をめぐり、穏やかではないニュースが続いている。
水産資源の枯渇によって、寿司屋などの外食産業や一般家庭の食卓に並ぶ魚の種類にも変化が表れており、また家計への影響も無視できない。この背景には、多くの水産物の「乱獲」や「獲りすぎ」の深刻化が招く、資源量の減少と枯渇の危機がある。
実際、世界人口の増加による経済活動の拡大に伴い、魚や貝、エビなどの水産物の需要と消費は過去50年間で5倍に増加した。今後もその傾向は続くとみられる。
その結果として、世界で漁業資源とされる魚種のうち、資源量にまだ余裕があるとされるのは全体の1割以下だ。6割は漁獲可能な上限のレベルまで獲られ、残り3割にいたっては過剰漁獲の状態にある。
そしてこうした現状が、水産物を水産食品として利用する業界のみならず、魚粉を家畜の餌として利用している畜産業をはじめ、他のさまざまなビジネス分野にも影響を及ぼしている。
シーフードのサステナビリティ、現行ルールだけでは不十分
過剰な水産資源の利用を抑え、海の恵みを将来的に変わらず享受し続けるには、水産ビジネスのサステナビリティの確立が欠かせない。
そのための大きな枠組みとして、世界には「RFMO」と呼ばれる地域漁業管理機関がある。これは、漁獲の海域や魚種などに応じて設けられた国際機関で、マグロ類について言えば「ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)」「WCPFC(中西部太平洋マグロ類委員会)」「CCSBT(ミナミマグロ保存委員会)」などがある。加盟している各国政府代表の協議のもと、資源管理のための漁業のルールなどを定めている。
また、各国政府はこれらの取り決めに基づき、国内法を整備し、そのルールの周知徹底を漁業者や水産業界に対して行うことで、国際的な合意に基づいた資源管理を促進する責任を負っている。
しかし、実際にはこれだけで水産物のサステナビリティを確立するのは困難と言わねばならない。水産資源として利用されるあらゆる魚種、海域の全てについて、国が指針を決めることは現状極めて困難なためだ。
何より、サステナビリティを証明する上で欠かせないトレーサビリティを実現するためには、実際の生産現場の管理や監督を徹底する必要がある。これらはむしろ、国の政策ではなく、その資源を扱うビジネスにおいて確立が求められるものだ。これは水産資源に限らない、自然資源を扱う全ての業界に通じた課題といえる。
ビジネス側でどうやって、水産資源を持続可能な形で、サステナブルに利用していくのか。実際問題として、水産業の母体である漁業資源が枯渇したら、そもそも産業自体が成り立たない。そのことに何よりも危機感を抱き、対応の必要性を感じているのは、他ならない漁業者と水産企業だろう。
そうした立場の人たちの努力によって2024年2月15日、大きな改善の一歩が踏み出された。日本の漁業会社2社から成るグループが、国内では初となる日本船籍のカツオ・キハダのまき網漁業での「MSC漁業認証」を取得したのである。
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