ロボット支援手術の第一人者に聞く 日本製「ヒノトリ」の可能性:保険適用拡大で普及(2/2 ページ)
ロボット手術の世界的第一人者、札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座の竹政伊知朗教授に、日本製の手術支援ロボットの可能性や今後の展望を聞いた。
遠隔医療も可能に 北海道モデルを横展開へ
現在は「仕事が厳しい」などの理由で、外科医のなり手が少ない。そのため外科医不足が目立ってきている。だが、がん患者は増える一方のため、日本では需給のアンバランスが起きているという。
「東京と地方を比べると医療密度が20倍も違い、医療格差があります。地方では最先端の治療が受けにくくなっていて、私も北海道に来てこの実態を目の当たりにしました。何とか北海道の患者の皆さんにも最新医療の恩恵を受けていただきたいとの思いから、遠隔で医療指導できないかと思っていました。遠隔で画面を見ながら手術できるようになれば、その格差を縮小できます」
ただ問題は、実際に施術をしてから手術映像のデータが送られてくるまでに時間がズレる致命的な課題があったことだ。この映像転送のズレは、遠隔によるアドバイスがリアルタイムとならずに、かえって危険な指示となる恐れがあった。このため専門の企業と共同研究することによって、映像データを圧縮する方法などの改良を重ねてもらった結果、目標としてきた0.5秒以内のズレより大幅に短い0.02秒まで短縮できるメドが立ったのだ。
竹政教授は「遠隔手術の可能性が大きく広がりました。地域医療に最先端医療の光を当てる、これを『北海道モデル』にして他の地域にも普及させていきたい」と期待を語った。
AIとロボットの親和性の高さ
最新のAI技術を用いると、どこを切れば良いのか、どこを剥離すればよいのかなどを瞬時に画像に表示できるようになってきた。AI技術とロボットの親和性はとても高く、近い将来、ロボット手術に付加価値として応用することが検討され始めた。「これはAIが学習した結果に基づいて見つけてくれるもので、専門の企業と共同研究し、3年間の検証をした結果、若手などまだ技術が完成されていない術者であっても、AIの画像が、がんの手術での安全性と根治性の担保を補助するのに有用であることが認められ、もうじき保険適用される技術です」と話す。
「AIには不確定要素も含まれる可能性があるため、AIに振り回されるのではなく、AIは使い切る姿勢が大事です。最終判断は医師がするので、患者に対してどのような治療が最適なのか信念を持った医師でなければなりません」と医師の役割について指摘する。
手術支援ロボットは保険適用範囲が広がったことによって、患者の経済的な負担も軽減されるため、技術的な進歩と相まって広がっている。メイド・イン・ジャパンの支援ロボットであるヒノトリが、後発ながらどこまでダヴィンチに肉薄できるか。
竹政教授が指摘するように、ロボットを使った遠隔治療が実現すれば、医療格差による「医療難民」をなくせる。期待の大きい手術支援ロボットのさらなる普及にエールを送りたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
二宮和也主演「ブラックペアン」で話題の手術支援ロボット 直腸がん手術「第一人者」に聞く
二宮和也が「オペ室の悪魔」と呼ばれるダークヒーロー役を演じる人気テレビドラマ「ブラックペアン」に登場する手術支援ロボットが、いま日本の医療施設に普及しようとしている。ロボットを使った直腸がん手術の第一人者である絹笠祐介・東京医科歯科大学教授に現状と課題を聞いた。
「液化水素運搬船」先駆者の川崎重工 河野一郎常務に聞く「韓国や中国がまねできない技術」
川崎重工業が水素ビジネスに本腰を入れている。造船技術を生かして液化水素運搬船を建造し、液化水素の海上輸送でトップランナーの役割を果たす。この分野の責任者である河野一郎常務にインタビューした。
松尾豊東大教授が明かす 日本企業が「ChatGPTでDX」すべき理由
松尾豊東大教授が「生成AIの現状と活用可能性」「国内外の動きと日本のAI戦略」について講演した。
日立の好業績を牽引する“巨大事業”の正体 日立デジタルCEOに聞く
日立は2009年当時、日本の製造業で過去最大の赤字だった状況から再成長を果たした。復活のカギとなった巨大事業、Lumadaのビジネスモデルとは――。日立デジタルの谷口潤CEOにインタビューした。
日立のクラウド部門新トップは異組織出身 2万人を束ねるキーパーソンに展望を聞いた
日立製作所のクラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEOに新しく就任したのが、社会ビジネスユニット出身の細矢良智氏だ。
日立の責任者に聞く生成AIの“勢力予想図” 「来年、かなりの差がつく」
日立はどのように生成AIを利活用しようとしているのか。Generative AIセンターの吉田順センター長に話を聞いた。
