審査・担保不要で「最大100万円」 PayPayの“借りない資金調達”は何がすごいのか:決済データ活用で与信(3/3 ページ)
PayPayが決済データを活用した新ビジネス「PayPay資金調達」を開始。データを使って加盟店の将来の売り上げを予測、その一部を買い取る形で資金を提供する。PayPayを使えば使うほど多くの資金が調達できるようにすることで、店舗のPayPay利用をさらに促進するのが狙いだ。
他サービスと比べた利点
実は、こうした“将来債権の買い取り”という形のファクタリングサービスは、PayPayに限らず、昨今各社が力を入れている分野だ。
例えば三井住友カードは2024年3月、クレジットカード加盟店向けに「stera finance」の提供を開始。リクルートも2022年4月に「Airキャッシュ」をスタートさせるなど、ここにきてこの分野への参入が目立つ。
背景にあるのは、キャッシュレス化の進展だ。クレジットカードやQRコード決済など、キャッシュレス決済のデータが蓄積されることで、AIを活用した売り上げ予測が可能になった。以前は難しかった、個人事業主も含めた中小・小規模事業者への融資リスク判断が、データドリブンでできる時代になったのだ。
競合がマルチ決済端末のデータを元に予測を行えるのに対し、PayPayは現金やクレジットカードなどでの決済の状況は把握できない。ただし、加盟店側の決済情報だけでなく、どのユーザーがどこでPayPayを利用したかという情報も利用できる点が強みだ。
「私たちは加盟店の決済情報だけでなく、ユーザー(消費者)の情報も持っているので、より高度なデータ分析ができるんです」と、柳瀬氏は競合サービスとの差別化ポイントを強調する。店舗への送客効果の高いユーザー層がどの程度いるのか、PayPay経済圏内での利用額や利用頻度はどの程度なのか――こうした消費者の行動データを売り上げ予測に活用できる点が、PayPayの強みだ。加えて、現在は活用していないが、将来的には消費者の属性情報なども売り上げ予測に生かしていく可能性があるという。
今後は、こうしたさまざまなデータを売り上げ予測に活用することで、さらなる優位性の確立を目指す。まさに、キャッシュレス化の恩恵を生かした新たな金融サービスの胎動といえるだろう。
現在はPayPayの取引データが十分にある加盟店への招待制での提供にとどまっているが、対象加盟店を徐々に拡大していく予定だ。将来的に、PayPay以外のQRコード決済や、クレジットカード決済を含む売り上げ全体のデータを捕捉できれば、より大きな資金ニーズに応えられる可能性がある。調達可能額の引き上げも検討課題の1つだ。
サービス開始から1カ月が経過したが、手応えはどうだろうか。「想定していた申し込み数の5倍近い反響をいただいています。一度利用した加盟店の再利用率も高く、ニーズの大きさを実感しています」(柳瀬氏)。ただし、この実績はあくまで選別した加盟店に対する招待制での数字。今後は対象を広げるとともに、想定外のリスクが顕在化する可能性もある。
リスクをコントロールしつつ、いかに多くの加盟店の資金ニーズに応えていけるか。PayPayが進める新たな金融サービスは、中小加盟店のキャッシュレス化をさらに促す起爆剤となるだろうか。
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