「もっと働け」と強いる“女性活躍推進”のむなしさ 男女の格差なぜなくならない?:働き方の見取り図(2/3 ページ)
海外と比較しても大きいと言われる日本の男女間の賃金格差。女性活躍をさらに推進することで解決できる問題なのか?
女性活躍で“男性並み”求める違和感
ところが、それを阻む大きくて分厚い壁があります。家事や育児といった、家庭に費やす時間や労力などの工数です。
1980年代までは専業主婦世帯の方が多かった状況が2000年以降は逆転し、いまでは兼業主婦世帯の方が2倍以上多くなっています。そのことが、家庭全体の総工数を増加させました。工数を軸に男女の典型モデルを比較してみると、その影響が見えてきます。
家庭モデルごとに工数を可視化すると……
専業主婦世帯の夫は仕事専業です。実際には家庭ごとに違いがあるものの、大まかなモデルで考えると専業主婦世帯の夫は、時間と労力といった工数を100%仕事に注ぎ込んできました。一方、専業主婦である妻は工数を100%家庭に注ぎこみます。
夫婦が仕事と家庭にそれぞれ100ずつの工数をかけているとすると、夫婦の合計工数は200です。ところが、いま全体の3分の2以上を占める兼業主婦世帯では、専業主婦だった妻にパートなどの仕事に従事する負荷が加わりました。
だからといって、家庭にかかる工数が変わるわけではありません。冷凍食品が充実し、食洗器やロボット掃除機などの便利なツールが出てきているとはいえ、家事や育児、介護など家庭には365日休むことなくやらなければならないことが盛りだくさんです。妻がワンオペで家庭を切り盛りし、そこに付加されるパートなどの仕事工数を夫の半分程度とする兼業主婦世帯モデルをグラフで表すと、以下のようになります。
夫婦の合計工数は250となり、夫の収入だけで生活できる専業主婦世帯の総工数200よりも増えています。妻の家計補助が生活に欠かせなくなったことで、その分の工数が上乗せされました。その上乗せ負担のほとんどが、妻だけにかかっているということです。
もちろん、家庭によっては妻の仕事工数が30の場合や100の場合、夫の家庭工数が10や50という場合などもあるかもしれませんが、状況を整理するために典型モデルで考えると、多くの家庭において総工数が増え、そのほとんどが妻の負担になっているのが現状になります。
「スーパーウーマンになれ」と求めるも同然
一方、夫は夫で家庭での役割を期待されるようになり、妻の負担を減らそうと徐々に頑張りつつあります。そんな夫が、家庭工数を20受け持った場合の兼業主婦世帯モデルを表したのが以下グラフです。
まだ妻に負担が偏ってはいますが、夫の負担も合計で120に増しています。この場合、総工数200だったころと比較して妻は負担が30、夫も20増えているということです。では、そのケースで妻の仕事工数を夫と同じ水準に引き上げるとどうなるでしょうか。
夫婦の合計工数は300となり、妻単独の工数は180となりました。これはあまりに負荷が大きく、現実的な数値とは言えません。中にはそれができる特別な女性も存在するのかもしれませんが、家庭工数が変わらないまま、妻が夫と同じように働くことを推進して男女の賃金格差を是正しようとするのは、世の女性にスーパーウーマンになれと求めることを意味します。
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