「もっと働け」と強いる“女性活躍推進”のむなしさ 男女の格差なぜなくならない?:働き方の見取り図(3/3 ページ)
海外と比較しても大きいと言われる日本の男女間の賃金格差。女性活躍をさらに推進することで解決できる問題なのか?
「仕事専業モデル」を見直すべき理由
一方、もし合計工数を250に抑えたままで夫婦の仕事工数を同程度にするなら、以下グラフのようなモデルが考えられます。
家庭工数の合計を100から50に下げるのが1つのパターンです。そのためには両親の近くに引っ越しして家庭運営を手伝ってもらったり、家事代行といったサービスを利用するなどして家庭工数自体を減らさなければなりません。後者の場合、相応の金銭負担が伴うことになるでしょう。
ただ、家庭工数を減らすことが難しい場合もありますし、負担が妻に偏ったままになっています。それらを考慮したパターンが以下です。
夫が家庭補佐ではなく、妻が家計補助でもなく、夫婦が対等に仕事にも家庭にも携わり、かつ仕事工数を75程度に抑えた上で、給与はいまの男性と同等の水準にするということになります。このような状態を実現するには、まず家庭内にある性別役割分業を解消し、夫婦ともに主婦・主夫として家庭を切り盛りしながら仕事と両立し、いまよりも少ない仕事工数で給与水準を維持できるように生産性を高めなければなりません。
男女の賃金格差是正は重要な課題ですが、是正するにあたって「女性活躍推進だ!」と女性をいまの男性並みに働けるようにするという考え方をしてしまうと根本的に間違ってしまう可能性があります。取り組むべきは、多くの男性に見られるような仕事専業モデルを標準と見なしてそれに合わせるのではなく、性別に関係なく誰もが仕事と家庭を両立させながら、いまの男性と同等の収入が得られる仕組みを新たに構築することです。
夫婦の役割分担には家庭の数だけ最適解があります。専業主婦が最適な家庭も専業主夫が最適な家庭もあるはずです。ただ、夫婦とも仕事75・家庭50でも十分生活を成り立たせられる選択肢も生み出さないと、世帯の総工数をさらに増やすことになりかねません。
ただ、夫婦とも「仕事工数75+家庭工数50」という選択肢が生まれても総工数は250のままです。これを200にまで下げるには、「仕事工数75+家庭工数25」や「仕事工数50+家庭工数50」など色々なパターンが考えられます。その実現には、家事代行を利用する金銭補助を手厚くして家庭工数を下げる、AIなどテクノロジーのさらなる活用を進めて仕事工数を下げる、などの取り組みが求められます。
既に女性を中心に世帯全体が工数過多となっている中で必要なのは、女性がいまの男性と同じように働けるようにすることではなく、生活スタイル自体の再設計です。それなのに、女性活躍を推進しさえすれば男女の賃金格差は是正されると考えてしまうと、総工数が増えて負担がさらにかかるという、大きな落とし穴にはまることになるのではないでしょうか。
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