「KADOKAWA」「ニコ動」へのサイバー攻撃、犯人と交渉中の暴露報道は“正しい”ことなのか:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
KADOKAWAグループのニコニコ動画などがランサムウェア攻撃を受けた事件について、NewsPicksが交渉内容を暴露する記事を出した。交渉中のタイミングで報じることは、企業の判断や行動を制限しかねない。対策にめどが立った段階まで待つべきではないだろうか。
情報提供者の処遇はどうなるのか
もう一つ、今回の記事によって懸念されるのは、NewsPicksに情報提供をした関係者が今後どういう処遇になるのかだ。守秘義務の契約を交わしていたら、不正競争防止法違反や損害賠償請求など、刑事や民事で問題になる可能性がある。今回の情報提供が、結果的に攻撃者を利することになり、会社に大きな損害を与えたと判断されると、金銭的な賠償問題になりかねない。
一部で指摘があるように、この記事により「身代金を追加で払えば解決する」という状況を明らかにしてしまったことで、犯罪者側に利することになりかねないという意見もある。情報を暴露した関係者にそのつもりはなかったとしても、告発者が攻撃者の協力者であるかのように見えてしまう可能性とリスクについて、NewsPicks側はどのように説明していたのだろうか。
最近、鹿児島県警でも内部告発者が国家公務員法違反(守秘義務違反)で逮捕されるケースがあったが、今回の内部告発者についてNewsPicks側がどのような考えを持っているのかは分からない。だがセキュリティ企業や政府関係者、サイバー犯罪者までを含めてサイバーセキュリティを取材している者として、交渉が続いている事件をここまで詳細に報じるのは、やはり少し早過ぎたのではないだろうか。
今後の展開が気になるところだ。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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